名古屋生まれの中国人FW、「社会人リーグ→4部→3部→2部→1部」の“シンデレラストーリー”の舞台裏【インタビュー】
【中国サッカー考察】ナツ・タツリュウが振り返る“ターニングポイント”とは?
コロナ禍も終息し、中国サッカーリーグは数年ぶりの通常開催となった。その中国サッカー界で、日本に大きな関係を持つ1人の選手が今年タイトルを獲得した。夏達龍(ナツ・タツリュウ)。2023年の中国2部リーグを制覇した四川九牛クラブ所属の30歳FWだ。中国人の父と日中の国籍を持つ母の元、名古屋で生まれ育ち、高校サッカー引退後に渡中。一度は普通の大学生として中国語学習に励むなど過ごしていたが、社会人リーグから4部リーグ、3部リーグ、2部リーグ、そして今年その2部リーグにて優勝を果たした。来年は中国1部のスーパーリーグでプレーするという、まさに絵に描いたシンデレラストーリーを描くナツ・タツリュウを直撃した。(取材・文=久保田嶺)
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――中国2部リーグ優勝、スーパーリーグ昇格、おめでとうございます。チームのことや中国サッカー、またナツ選手のシンデレラストーリーについて聞かせていただければと思います。
「ありがとうございます。中国に来た時は本当に想像もしなかったストーリーです」
――まず、今の率直な気持ちを教えてください。
「目標が叶ったという気持ちです。昇格はもちろんですが、優勝できたことも非常に嬉しいです。コロナ明けで正常運転になった年なのでサポーターと喜びを分かち合えますし、何より僕自身初のタイトルになります」
――私も試合を観戦しましたが、サポーターがナツ選手を「龍さん(Long Sang)」と呼んでいるのが印象的でした。
「中国のサポーターも日本人が『〇〇さん』と人を呼ぶことを知っています。なので、僕も日本で育った選手ということでみんなから『ロンさん』と呼ばれています。特に今シーズンから一気にサポーター間でも広まった感じで、愛称があるのは非常に嬉しいです」
――加入して3年、この四川九牛というクラブはいかがですか。
「このチームに来たのは最高の選択でした。2019年に所属していた保定容大というチームが給与未払いとなり、移籍先を模索していました。今だから言えますが、その時、4部の深圳のチームからオファーをすでにもらっており、そこに移籍するつもりでした。しかし、そのチームのキャンプイン寸前に四川九牛の練習参加の話が出て、そしてなんと四川九牛の練習している場所が自分のいる隣町だったのです。もちろん深圳のキャンプに行かず、四川九牛の練習を受けにいけば深圳チームの話はなくなります。しかし、可能性に賭けて練習に参加し、無事にオファーをもらうことができて今に至ります」
――そこは1つのターニングポイントですね。
「はい。もしあの時に深圳に行っていれば、そのチームは解散、何より優勝やスーパーリーグにはもちろんたどり着いていません。リスクを取って良かったです」
――加入した四川九牛は、あのマンチェスター・シティのグループだと思いますが、何か影響や協業はあるのですか?
「あります。経営の部分は選手なので不明ですが、例えば先日の昇格が懸かった試合ではマンチェスター・シティの選手から『頑張れ』とビデオメッセージが来ました。日本の横浜F・マリノスも同じグループなので、同様にメッセージをもらっています。あとはやはり大きくビジョンのあるグループなので、給与未払いや解散などの可能性が非常に低いのも大きいです。そういった余計なことは考えずにサッカーに集中できます」
――ホームタウンである成都という街はどうでしょうか?
「素晴らしいです。今まで名古屋、上海、北京など生活してきましたが、一番気に入っています。自然も豊富なので月に1回は山登りやハイキングに行っていますし、あとは物価も上海などに比べると安いです。中心地に行けばスシローや牛角などの日本食もあります。また、なんとと言っても火鍋の本場なので食は間違いありません。ぜひ日本のみなさんにもオススメです」
年末には日本へ帰国予定
――ナツ選手は中国のすべてのリーグカテゴリーでプレーし、またコロナ禍や給与未払いなど、まさに中国サッカーの酸いも甘いも経験した選手になるかと思います。
「そうですね(笑)。ひと通りのことは経験したかと思います。ラストピースであるスーパーリーグも来年挑戦できますし、今は中国リーグに日本人選手は誰もいないので、唯一の日本語が話せる中国リーグ所属の選手かと思います。なので、もっと日本のみなさんにも情報を発信できたらと考えています」
――スーパーリーグであれば、上海申花や北京国安といったビッグクラブとも対戦します。
「今までもカップ戦などで対戦してきましたので、個人的には十分戦えると思います。しかし、なんと言ってもスーパーリーグはクラブにとって初めての挑戦になりますので、簡単ではないとも覚悟しています」
――今後の予定は?
「11月の1週目までは試合があり、優勝セレモニーなどを行い、その後日本へ帰国予定です。第2子が生まれたばかりということもあり、家族は日本にいますので、一緒にゆっくり過ごしたいです。それ以外には名古屋の地元クラブで子供たちへ経験を伝えたりしたいと思っています。その後、年明けにキャンプが始まって、スーパーリーグを戦っていくという流れです」
――最後に日本サッカーファンへメッセージをお願いします。
「日本で生まれ育ったということもあり、日本語が第一言語ですし、今後より日本サッカーファンの方々とも交流できたらと思っています。特に来年はスーパーリーグを戦いますので、上海や北京といった日本人が多い場所のスタジアムでもプレーします。機会があればぜひ観戦に来てください。スタジアムでお会いできるのを楽しみにしています」
(久保田嶺 / Rei Kubota)
久保田嶺
1991年生まれ、埼玉県出身。「Rouse Shanghai Co.,Ltd.」代表。日系企業の中国インバウンド事業やマーケティング、中国サッカー選手/指導者のマネージメントを手掛ける。自身の中国SNSフォロワー数も40万人と中国サッカー界で一番有名な日本人としても活躍。日本へ中国サッカー情報を発信する。