ファインダー越しに感じた選手の充実感 鹿島を圧倒した神戸に近づく念願のリーグ初制覇の時【コラム】

神戸が鹿島に快勝【写真:徳原隆元】
神戸が鹿島に快勝【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】後半15分に酒井→山口→大迫とつないだ素早い攻撃は今季の象徴

 10月21日に国立競技場で行われたヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ戦後、サポーターに挨拶をするため、スタジアムを回る神戸の選手の中から武藤嘉紀にカメラを向けて「これだけ思い通りにサッカーができると楽しいでしょう」と声をかけた。ファインダーの向こうの武藤は小さく笑っただけだが、神戸は上位対決となった鹿島との一戦で終始、試合の主導権を握り続け、勝利を挙げた。

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 思い通りの展開でゲームを進め、そして結果も伴うサッカー見せられている神戸の選手たちは、きっと日々のサッカー生活に充実感を覚えていることだろう。

 リーグ開幕から好調を維持し首位の座に就く神戸。シーズン当初から堅固な守備で相手の攻撃を封じ、素早い攻守の切り替えによる速攻で相手ゴールを目指すコンセプトは終盤を迎えた今も変わっていない。しかし、そのスタイルは試合を重ねることによって変化を遂げ、よりシンプルに、そして威力が増している。

 開幕当初、神戸はサイド攻撃を起点に、そこからチャンスを作っていた。だが、シーズン終盤となった今はサイド攻撃にこだわらず、ピッチ全体を使って時間をかけずに相手ゴールを目指す戦い方となっている。

 その象徴となるようなプレーが後半15分に見られた。右サイドでボールを持った酒井高徳がやや後方にいた山口蛍にパス。山口は迷わずゴール前に一気のロングパスを送ると、大迫勇也がこのボールにコンタクトしてヘディングシュートを放つ。惜しくもゴールとはならなかったが、たった2本のパスからの組み立てでシュートまで持っていく素早い攻撃は、まさに神戸の強さの根幹を成す、シーズンを通して貫いてきたスタイルだ。

 ただ、鹿島も素早く攻める攻撃でリーグ序盤のつまずきから立ち直り、リーグ上位へと進出してきていた。同じスタイルの戦いとなりながらも、試合内容で神戸が圧倒したのはなぜか。それは戦術の差にあったと言える。

武藤嘉紀はガッツポーズで勝利を喜んだ【写真:徳原隆元】
武藤嘉紀はガッツポーズで勝利を喜んだ【写真:徳原隆元】

シンプルで手堅い連係と個人能力の共存スタイル

 鹿島のゴールを目指すスタイルは連係にズレやミスがあっても、選手たちの闘志から生まれるフィジカルで補い、なんとかボールに追い付いて攻撃を続行させる個人の頑張りを拠りどころにしている部分が大きい。それは力技と言っていい。そうしたプレーで帳尻を合わせることは決して悪くはないが、個人の運動量に依存した奮闘だけではチームスポーツであるサッカーにおいて、手強い相手との対戦になるとやはり限界があり通用しない。

 対して神戸は相手守備陣を崩す方法を選手たちが共通意識として持っている。シンブルな攻撃の中に、しっかりと戦術が根付いている。行き当たりばったりの攻撃ではないということだ。同じスタイル同士の対戦となった試合で、このチームとしての完成度の差が結果と内容に大きく反映されたことになる。

 神戸はそうした充実した連係に加え、局面においては個人能力も存分に発揮された。山口や扇原貴宏が見せる1対1での勝負強さや、大迫のマークを受けながらもしっかりとポストプレーをこなし、チャンスと見ればシュートを放つゴールへの嗅覚など、手数をかけない戦術にあっても要所では個人能力が光った。

 2ゴールを叩き出した佐々木大樹とチーム2点目をゲットした井出遥也もプレーに派手さはないが確かな技術による安定感があった。途中出場のジェアン・パトリッキも得意としているドリブルで強引に鹿島守備網を突破するのではなく、周囲との連係も意識して状況によってはパスに切り替える柔軟性が見られた。

 連係を強く意識したなかで局面では選手の個人能力を発揮して戦う、そのスタイルはシンブルで手堅い。首位を走る神戸のサッカーは、前節の横浜F・マリノス戦でも感じたが、攻略する要素を見つけ出すのが難しいほど充実している。そうなると2戦続けての上位対決を制した神戸に、いよいよリーグ初制覇の時が近付いているように思うのだが……。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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