ドイツで新たな“日本人サイクル” ブンデス所属選手8人の序盤戦を考察、“バイエルンデビュー”19歳の次なるステップは?【コラム】
バイエルンデビューの福井、フライブルク浮上の鍵は堂安にありか
海外移籍に挑戦する日本人選手が多く在籍するのがドイツのブンデスリーガだ。「FOOTBALL ZONE」では欧州でプレーする侍たちに焦点を当て、「欧州日本人・序盤戦通信簿」と題し特集を展開。ブンデスリーガに所属する日本人選手8人を、「飛躍の条件」をベースに独自評価していく。(文=河治良幸)
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【評価指標】
S=抜群の出来
A=上出来
B=まずまずの出来
C=可もなく不可もなく
D=期待外れ
■福井太智(バイエルン・ミュンヘン)
評価:A
飛躍の条件:リーグ戦で出番を掴む
現在ブンデスリーガの1部でプレーする日本人選手は8人。遠藤航がシュトゥットガルトからプレミアリーグのリバプール、鎌田大地がフランクフルトからセリエAのラツィオにステップアップしており、新たなサイクルを迎えている。
そのなかでポカール(ドイツカップ)1回戦で、19歳にして公式戦デビューを果たした王者バイエルンの福井太智は4部のセカンドチームに在籍するが、第4節のレバークーゼン戦でトップチームにベンチ入り。フランス代表のキングスレイ・コマンに筋肉系の問題が起きたことが理由だが、ブンデスリーガの公式サイトで記事が組まれるなど、その時から注目はされていた。
ポカールのプロイセン・ミュンスター戦は3部の相手にバイエルンが3-0とリードしたところで、ドイツ代表ヨシュア・キミッヒに代わっての出場だったが、アンカーのポジションで堂々とした振る舞いを見せて、配球でも見せ場を作った。どんどん試合に出て強度を高めるという意味でも引き続き、当面セカンドチームがメインステージになると想定されるが、ここから過密日程が続いていくなかで、トーマス・トゥヘル監督はチャンスを与えるのではないか。
セカンドチームが4部であることもあり、20歳にして主力に定着するドイツ代表ジャマル・ムシアラのようなケースは異例で、ドイツ2部のクラブなどにレンタルで出して、目覚ましい成長が認められばトップチームに戻すというのが既定路線と考えられるが、与えられたチャンスにアピールできれば来季を待たずに、トップチームの戦力として計算されていく可能性もある。かつて香川真司や岡崎慎司も指導したトゥヘル監督が、良い選手でいれば、年齢が若くても積極的に登用していくタイプの監督であることもプラスに働くかもしれない。
“走れるファンタジスタ”である福井はボールを捌けて運べるという持ち味があり、チャンスと見れば高い位置で決定的な仕事もできる。守備強度などは伸ばしていく必要はあるが、セカンドボールの回収など、予測力を活かした判断スピードというのは同世代の選手の中で目を見張る。今年のU-20ワールドカップ(W杯)では松木玖生(FC東京)らとともに、悔しい経験をアルゼンチンから持ち帰ってきた福井はパリ五輪でもメンバー入りの期待が懸かる。ただ、それ以上にバイエルンという欧州屈指の強豪で、トップチームに定着できれば、おのずとA代表の道は開けてくるだろう。
板倉は環境が揃うボルシアMGで、どこまで自身のリーダーシップを発揮できるか
■板倉滉(ボルシアMG)
評価:B
飛躍の条件:守備面のリーダーシップ
板倉滉はボルシアMGの押しも押されぬ主力であり、ディフェンスラインを統率する存在になってきている。今夏にも移籍の噂があったなかで、ドイツでも名門の1つに数えられるクラブに残ったことは悪くない。在籍して2年目だということ、JFA(日本サッカー協会)の欧州支部が近隣のデュッセルドルフにあり、代表スタッフと常にコンタクトを取ったり、メディカル面でもサポートを受けられるなど、落ち着いて伸ばせる環境でもある。
ただ、チーム自体はなかなか攻守が噛み合わず、レバークーゼンやダルムシュタットに3失点など、板倉個人というよりもジェラルド・セオアネ監督が率いるチームとして上手く行っているとは言い難い。やはり本来はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を得られる4位以内を目指すようなチームだけに、気鋭の監督として期待された指揮官の早期交代もありうる状況だ。板倉としてはセンターバックのコンビを組むマキシミリアン・ブーバーとの関係はもちろん、ディフェンシブなポジションの選手をまとめていく力が求められると同時に、相手の強力なFWを個で封じていく仕事が評価につながる。
■堂安律(フライブルク)
評価:C
飛躍の条件:目に見える結果を出す
堂安律もフライブルクで2シーズン目に。昨シーズンはギリギリでCLを逃したが、ブンデスリーガはもちろん、UEFAヨーロッパリーグ(EL)でも価値を示していくことが、ここからのステップアップにつながってくる。序盤戦は歯に問題を抱えていたことも影響してか、なかなかギアが上がっていないように見受けるところもあったが、代表活動から帰って迎えたELの開幕節オリンピアコス戦で、勝ち越しゴールにつながるPKを獲得。さらにコーナーキック(CK)で追加点を演出するなど、ゴールやアシストという数字は付かなかったが、目に見える活躍を見せた。
この活躍がブンデスリーガにもつながっていくことを期待したい。フライブルクは現在9だが、不沈は堂安が握っていると言っても過言ではないだろう。10番を背負ってカタールW杯を目指す堂安にとって、久保建英(レアル・ソシエダ)や三笘薫(ブライトン)、南野拓実(ASモナコ)など、日本人アタッカーの目覚ましい活躍は意識しない方が無理かもしれない。ただ、そうした危機感も飛躍のバネにできる選手だ。
■浅野拓磨(ボーフム)
評価:B
飛躍の条件:継続的なゴール
浅野拓磨はボーフムでレギュラーポジションを確立しており、3-5-2のFWという新たなポジションにもトライしている。チームはもちろん、ブンデスリーガ全体で見ても、走力データで上位に来るのは当たり前になっており、浅野の攻守にわたる献身性は数字でもはっきり分かる。そこにゴールがどこまで付いてくるか。代表合流の直前に、アウクスブルク戦で2ゴールを決めたが、フランクフルト戦は3本のシュートも無得点。バイエルン・ミュンヘン戦はシュートを打てずに終わった。
アスリート的な分野で浅野がリーグでもトップレベルで、トーマス・レッチュ監督にとっても外せない存在であることは明らかだが、そこに結果を付けていかないと、個人としての価値は上がっていかない。日本でもパリ五輪世代など、どんどん活きの良いFWが出てきているなかで、3年後に控える次のW杯まで限られたFW枠のポジションを開け渡さないためには、浅野自身もストライカーとして、もう一皮むける必要がある。
■伊藤洋輝(シュツットガルト)
評価:B
飛躍の条件:攻撃面の進化
ここまでシュトゥットガルトでは3バックにしても4バックにしても、左利きのセンターバックとして実績と経験を積み上げて来ていた伊藤洋輝。夏には移籍の話も出てシュトゥットガルト残留となったが、4-4-2の左サイドバックとしてチャレンジしており、日本代表での起用法ともマッチする。もともと攻撃面もセンスはあるいだけに、試合を重ねるだけで対面の相手を止めるだけでなく、ボール運びや攻め上がってのクロスも板について来ており、今季すでに2アシストを記録。本当の意味で大型の左サイドバックとして覚醒していけば、自身のステップアップはもちろん、代表の同ポジションも強固になってくる。
【そのほか注目選手評価】
■原口元気(シュツットガルト)
評価:D
飛躍の条件:出場チャンスを掴む
■長谷部誠(フランクフルト)
評価:C
飛躍の条件:要所でチームを救う働き
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。