なでしこJ、パリ五輪行き狙う“新鋭タレント“たち 三笘彷彿のドリブラー、アジア大会で得点量産の18歳が名乗りも【コラム】

なでしこジャパンで活躍が期待される新鋭を紹介【写真:ロイター】
なでしこジャパンで活躍が期待される新鋭を紹介【写真:ロイター】

8強のW杯後、来年のパリ五輪に向けて新たな競争へ

 9月23日、池田太監督が率いるなでしこジャパン(日本女子代表/FIFAランキング8位)はオーストラリアとニュージーランドで行われた女子ワールドカップ(W杯)から初めての親善試合で、同31位のアルゼンチンに8-0と勝利。相手が遠征トラブルでコンディション不十分だったこともあり、額面どおりの結果と捉えることはできないが、W杯では5-4-1のセンターバックだったキャプテン熊谷紗希(ASローマ)を中盤の底に上げる4-3-3も感触は良く、W杯よりもボールを持つ側になるアジアの戦いに向けても、良いシミュレーションになったようだ。

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 今回はW杯組から大会中に肩を怪我したFW浜野まいか(チェルシー)と中国の杭州で開催中のアジア大会に招集されたFW千葉玲海菜(ジェフ千葉レディース)の2人だけが外れ、代わりにDF宝田沙織(リンシェーピング)とMF三浦成美(ノースカロライナ・カレッジ)が復帰した。宝田は出場がなかったが、三浦は7-0となった後半40分に入ると、左のインサイドハーフで溌剌としたプレーを見せた。

 中盤で途中出場のMF林穂之香(ウェストハム)はMF長野風花(リバプール)との交代で一度、右インサイドハーフに入り、MF長谷川唯(マンチェスター・シティ)が右から左にシフト。熊谷に代わり、三浦が入ってきたところで長谷川が右に戻り、林がアンカーを担う形になった。熊谷は所属クラブのローマでも中盤を担っており、代表では新たなチャレンジにも、大きな戸惑いは見られなかった。もともと希望していたポジションでもあり、DF南萌華(ローマ)とDF高橋はな(浦和レッズレディース)に2センターを任せられると池田監督が信頼を強めたことで、実現した布陣でもあるだろう。

 やはりチームの司令塔として振る舞う長谷川の存在感は絶大だが、2011年の澤穂希氏に並ぶ5得点でW杯ゴールデンブーツに輝いた宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)も得点こそなかったが、長谷川のPKにつながるクロスなど、持ち前のスピードを随所に発揮してなでしこジャパンの攻撃に勢いをもたらした。また左サイドバック(SB)のMF遠藤純(エンジェル・シティ)が攻守に渡って輝きを放っており、ここ数年なかなか定着しなかったポジションに真の主力が誕生した感がある。途中出場から見事なループシュートなど、2得点1アシストの活躍を見せたMF清家貴子(浦和レディース)も「出場するなら、何か違いを見せなきゃいけない。そうじゃないと、ここから先、生き残っていくのは難しい」と良い意味での危機感を表していた。

アルゼンチン戦出場メンバー【画像:FOOTBALL ZONE編集部】
アルゼンチン戦出場メンバー【画像:FOOTBALL ZONE編集部】

アジア大会に参加する“B代表”にも期待のタレントが…

 なでしこジャパンは親善試合から3日後の26日、9日間にわたる北九州合宿の締めとして、アルゼンチンと非公開の練習試合を行った。出場メンバーも非公表だが、おそらく19歳のMF藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)や宝田が出場して、同じシステムをテストしたと考えられる。今回のアルゼンチン戦での結果もさることながら、W杯ではスウェーデンに敗れてベスト8に終わったものの、世界から戦いぶりが賞賛された。32歳の熊谷が最年長で、年齢的にもキャリア的にも、まだまだこれからという選手が多い。

 もちろん現在のメンバーも清家の言葉どおり、危機感を持って活動に臨んでいる。アルゼンチン戦で遠藤のクロスから、見事なダイビングヘッドでのゴールを決めた高橋は「素晴らしい選手たちしかいないので。自分が本当に少しでもサボったら、一気にそこがすぐ入れ替わるというか、ここが決まった席ではないので。まだまだやることもたくさんありますし、自分に矢印を向けて、謙虚にやり続けたい」と語る。

 高橋にとっては同じ浦和でバックラインを組む20歳のDF石川璃音(浦和レディース)や今回復帰した宝田、アルゼンチン戦では途中から左SBに入ったDF三宅史織(INAC神戸レオネッサ)がライバルになるが、今回なでしこジャパンに選ばれていない実力者もいる。W杯にトレーニングパートナーとして参加した17歳のDF古賀塔子(JFAアカデミー福島)もアジア大会に参加しており、早い段階で台頭してくるポテンシャルはある。

 アジア大会を戦うメンバーは実質的な“B代表”とも言われるが、古賀やW杯メンバーのFW千葉のほかにも昨年のU-17W杯(日本はベスト8)で4得点を挙げて、シルバーブーツを獲得したMF谷川萌々子(JFAアカデミー福島)、三笘薫(ブライトン)を彷彿とさせるドリブル突破が武器のMF中嶋淑乃(サンフレッチェ広島レジーナ)、アジア大会で得点を量産している18歳MF榊原琴乃(ノジマステラ神奈川相模原)など、非常に魅力的なタレントがアピールを続けている。

 またU-20女子W杯の準優勝を牽引したMF松窪真心(ノースカロライナ・カレッジ)はWEリーグから米国のNWSLに挑戦の場を移し、同僚の三浦と中盤の主力に定着しており、マイナビ仙台で共闘した宮澤など、ハイレベルな2列目の競争に食い込んでくる期待は高い。

パリ五輪の本番に名乗りを挙げてきそうなタレントは少なくない

 ここから来年夏のパリ五輪でのメダル獲得に向けて、10月のアジア2次予選、そして来年2月には最終予選が待っている。12か国が3組に分かれる2次予選で日本はベトナム、開催国ウズベキスタン、インドという3か国が相手となる。W杯後に発表された最近のFIFAランキングが8位に上がったなでしこジャパンにとっても侮れない戦いになるが、ここで立ち止まっているわけには行かない。

 怖いのは最終予選で、2次予選で各組の1位、そして2位で最も成績の良い国を加えた4か国が、2組に分かれてホーム&アウェーを戦うが、W杯ベスト4のオーストラリアやコロナ禍で国際試合から離れていた北朝鮮と直接対決になる可能性がある。この厳しい予選を戦い終えるまで、選手を大幅に入れ替えるのは難しいだろう。しかし、パリ五輪の本番に名乗りを挙げてきそうなタレントは少なくない。

 ここから厳しいアジア予選を戦いながら、なでしこジャパンに新たなエネルギーを与えるフレッシュなタレントを組み込んでパリ五輪、さらにその先へ。チームの戦い、個人の戦いともに加熱していきそうだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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