森保ジャパン、9月招集メンバー「最新序列」考察 1トップ争いは上田リード…久保&堂安の立ち位置で“明暗”【コラム】

日本代表の最新序列を考察【画像:FOOTBALL ZONE編集部】
日本代表の最新序列を考察【画像:FOOTBALL ZONE編集部】

9月欧州遠征の招集メンバー26人から見る最新序列を考察

 森保一監督率いる日本代表(FIFAランキング20位)は9月の欧州遠征でドイツ代表(同15位)に4-1、トルコ代表(同41位)に4-2の勝利をそれぞれ収めた。欧州勢から実りある2連勝を飾ったなか、ここでは今回の招集メンバー26人の最新序列を考察。基本布陣とともに、各ポジションにおけるポジション争いの構図を追う。

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 ドイツ戦とトルコ戦で10人のスタメンが入れ替わった。26人のメンバーで唯一、伊藤洋輝が左サイドバック(SB)でフル出場した理由が、もう1人の候補である森下龍矢のコンディションによるものなのか、評価なのか、それとも違った意図があるのか分からないが、第2次森保ジャパンの立ち上げから最大の懸案ポジションと言われた左SBに、現時点での第一人者が確立されたことはシリーズの収穫と言える。

 また今回のシリーズで”ホットゾーン”だったFWはドイツ戦で上田綺世がゴールを決めただけでなく、ポストプレーやディフェンスでも高めのスタンダードを示したことで、ややリードした状況だ。ただし、途中出場で得点を決めた浅野拓磨は守備のタスクは当たり前にこなしながら、上田と異なる特長で相手ディフェンスの脅威になれるので、完全なファーストチョイス、セカンドオプションというよりは敵・味方の噛み合わせに応じて、使い分けることはできそうだ。

 その2点を踏まえて整理すると、ドイツ戦で4-1の勝利を果たした11人が、現時点ではそのままファーストチョイスになるのではないか。ベースのシステムは4-2-3-1としているが、守備時は1トップとトップ下が横並びになり、ミドルゾーンに4-4-2のコンパクトな3ラインでブロックを作りながら、攻守の切り替わりやリスタートに対してマンツー気味にハイプレスをかけていく。ビルドアップでは相手を見ながら4-1-4-1に可変するという基本的なメカニズムが出来上がりつつある。

 もちろん、そうしたオーガナイズは固定的ではなく、相手の出方を見ながらSBがインにもアウトにもポジションを取るし、ボランチも1人がセンターバック(CB)の間に落ちたり、CBと高く上がったSBの間にポジションを取るなど、現代サッカーでは当たり前になっている動きだが、基本的にドイツが相手でも個人で負けない選手が揃っているので、少しズレがあればボールを運べるし、まともな1対1でも攻撃ではボールを失わない、守備では決定的な仕事をやらせないタスクをフィールドの10人がそれぞれこなせていた。

 局面ではやはりレロイ・サネがドイツで最も危険な選手で、左SBの伊藤洋は中締めでフロリアン・ビルツをチェックしながら、サネが持ったら外側に対応する多重のタスクを背負っていたので、アウトサイドでの1対1は苦戦したが、GK大迫敬介によればとにかくカットインをさせないで、大外からクロスを出される分には仕方ないという割り切りで、ゴール前は声を掛け合っていたということで、想定内だったのだろう。

 伊藤洋と守田英正がビルツ、サネにヨシュア・キミッヒを加えたドイツの右側の攻撃に辛抱強く対応。日本のストロングである三笘薫が攻撃のスイッチとして機能することにより、ドイツの対応を非常に難しくさせた。そこに守田が絡むことでビルツを下げさせて、その手前でCBの冨安健洋がスペースと時間を与えられて、効果的なサイドチェンジや前選択のパスを出すというのも日本の狙いどおりだったようだ。

板倉滉と冨安健洋のCBコンビが奮闘【写真:ロイター】
板倉滉と冨安健洋のCBコンビが奮闘【写真:ロイター】

ドイツ戦の最大の収穫の1つは、冨安&板倉CBコンビの奮闘

 一方の右側も菅原由勢が快速アタッカーのセルジュ・ニャブリを封じながら、鎌田大地が右に流れたところで伊東純也とトライアングルを作って崩すというメカニズムがよく機能していたので、流れの中で伊東がボックス内に流れてフィニッシュに絡むことができた。後半は5バックにしたことで、レーンを埋めながら中盤の4枚と1トップで受け渡しのマンツーマンに行くため、全体が深くなり、ボールの奪うというよりはドイツのストロングを出させずに、ミスを狙ってカウンターにつなげるという意図が見られた。

 ドイツ戦の最大の収穫の1つが、4バックで前半を戦い抜いたこと。その要として奮闘したのが、冨安と板倉滉のCBコンビだ。森保監督は4バックが難しければ、前半の途中で5バックに変更することも選択肢に入れていたという。冨安と板倉が前線のカイ・ハフェルツだけでなく、2列目から飛び出してくるイルカイ・ギュンドアンやビルツにも柔軟に対応することで、多少持たれてもラインを下げずに、攻撃にも好影響を与えた。

 後半の5バック(3バック)の中央に入って重要な役割を果たしたのが谷口彰悟だ。トルコ戦では4バックのセンターを町田浩樹と組んだが、1対1の局面やクロス対応では少し問題が出てしまった。しかしながら、森保監督が5バック(3バック)というオプションを重視する限り、CBの3番手、5バックを使う場合は中央のファーストチョイスというポジションで、今後も継続的に呼ばれる可能性が高い。

 右SBは菅原が主力に定着してきているが、トルコ戦では代表デビューの毎熊晟矢が攻撃面の良さをアピールした。ただ守備面では3点目につながった見事なボール奪取もあれば、その後、デュエルで裏返されて失点につながるフリーキックを与えてしまうなど、慣れない国際舞台での課題も見られた。2試合ともに途中出場だった橋岡大樹とは持ち味も違うので、シンプルに序列付けするのは難しいが、インパクトという意味では毎熊が上回ったのは確かだ。ただ、代表デビュー戦は“名刺代わり”でもあるので、今後の継続性というのが大事になってくる。

 中盤は遠藤航と守田による2ボランチの信頼度も高く、タイトな守備と流動的な攻撃を実現できる。ドイツ戦で途中出場からチームの4点目を奪った田中碧は前からボールを奪いに行く強度や飛び出しのセンスなどで健在をアピールしたが、キャプテンマークを巻いてスタートから出たトルコ戦ではボール捌きのミスも多く、しっかりと試合に出て感覚的なところを高めていく必要性も感じられた。トルコ戦で初スタメンとなった伊藤敦樹は左足のミドルシュートを決めただけでなく、即時奪回につなげるプレスや機を見た飛び出しなど、トルコ戦で評価を高めた1人だろう。

 2列目は4-2-3-1の場合、右から伊東、鎌田、三笘がファーストセットとなるが、久保建英も途中出場で2アシストしたドイツ戦、トップ下で躍動したトルコ戦と目覚ましい活躍を見せた。3人の信頼度も高いが、久保が入ることで相手ディフェンスに与える脅威は間違いなくあり、どういう位置付けになっていくかは興味深い。

 10番を背負う堂安律に関しては評価が難しい。ドイツ戦で終盤に左サイドでゲームを締める役割になったが、トルコ戦では右サイドでスタメンのチャンスを得た。伊藤敦とのコンビネーションからアシストがあり、久保とポジションを入れ替えながら、中央からチャンスに絡むシーンも見られたが、相手に削られた影響か、ハーフタイムで無念の交代。6月シリーズでは4-1-4-1のインサイドハーフで右サイドの久保と面白いコンビネーションを披露したが、今回は堂安からすると、あまり良いシリーズだったとは言えないだろう。

所属クラブで好調の南野拓実と町野修斗【写真:徳原隆元】
所属クラブで好調の南野拓実と町野修斗【写真:徳原隆元】

町野修斗、南野拓実らメンバー外から序列を一気に逆転させ得るタレントも

 左サイドは三笘という絶対的な軸がいる前提で、中村敬斗が序列を変えるというよりは、また違った良さで効果的なオプションになること。さらに言えば、三笘が不測の事態で欠場するシチュエーションが起きた時にスタートから“左の翼”として稼働できるかが1つのテーマとなる。その意味では中2日のトルコ戦で2得点としっかり結果を残せたことは大きい。ただ、本人も認めるとおり、それ以外のシーンではあまりボールに関わることがなく、ドイツ戦で第一の起点になっていた三笘とはまた違った形の貢献だった。

 前田大然も今回FWが4枚いた状況で、セルティックでもプレーしてきた左サイドでの起用となった。クロスでチャンスメイクしたシーン、左で起点になってから伊藤洋のクロスに飛び込みながらも田中と被ってしまったシーンなど見どころもあったが、明確に存在価値を証明したとは言い難い。

 カタール・ワールドカップ(W杯)のようにある意味“弱者側”としてドイツ、スペインに挑むような構図だと前田のスピードは生きるのは確かだが、守備ではミドルブロックを組みながら機を見てプレスをかけるスタイルに変わり、攻撃は自分たちが主導権を握るオーガナイズでどう生きていくか。セルティックにも通じるところはあるので、引き続き期待したい。ただ、FWと左右サイドを兼ねるタイプのアタッカーはU-22日本代表でも細谷真大や斉藤光毅、鈴木唯人など、ヤングタレントがひしめく枠でもある。前線で良い動き出しを見せながら、明確な結果を出せなかった古橋亨梧も含めて、五輪世代との融合のタイミングで、難しい立ち位置になる可能性も否定できない。

 今回のシリーズは4-2-3-1をベースに戦いながら、選手がどうフィットするかがテーマになった。ただ、もしかしたら4-1-4-1の“はまり役”である旗手怜央が怪我でいなかったことなど、人的な事情も森保監督の選択に影響を与えているかもしれない。またフランス1部ASモナコで開幕から好パフォーマンスを見せながら、今回は選外だった南野拓実、ドイツ2部ホルシュタイン・キールで存在感あるプレーを続ける町野修斗など、パリ五輪世代のほかにも、メンバー外から序列を一気に逆転させ得るタレントもいることは頭に入れておく必要がある。

 国内組を含めたフレッシュな招集が期待される日本開催の10月シリーズ、北中米W杯の2次予選がスタートする11月シリーズ、そして来年のアジアカップと続く流れのなかで、どういった突き上げがあるのか興味深く見守りたいところだ。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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