あらゆる局面で隙のないアトレティコ 威力十分の攻撃、弱点なしの守備…90分間困らないチーム設計【コラム】

アトレティコ・マドリードが開幕3戦で10ゴール【写真:ロイター】
アトレティコ・マドリードが開幕3戦で10ゴール【写真:ロイター】

時間帯によって戦い方の構図が決まりがちな現代サッカー、序盤の構図も定番化

 今季もアトレティコ・マドリードが強そうだ。昨季は3位とはいえ、後半戦からは一体感のあるプレーぶりで好調だった。第3節のラージョ戦はアウェーにもかかわらず7-0の圧勝。第4節セビージャ戦は延期となり、1試合少ないが4位につけている。

 現代のサッカーは時間帯によって戦い方の構図が決まってきている。序盤の20分間ほどは守備側が敵陣からボールを奪いにいく。ハイプレス対ビルドアップにおいて、この時間帯に関しては守備側がやや有利かもしれない。そのためリスクを回避して自陣からパスをつなぐよりロングボールを選択するチームもあるが、そういうチームでも序盤はハイプレスを仕掛けることが多いので、フィールドで展開されるのはハイプレス対ビルドアップになるわけだ。

 少し前まではどちらもビルドアップを放棄してロングボールの蹴り合いになるケースも多かったのだが、ポジショナルプレーの浸透やゴールキックのルール改定もあって、自陣からパスをつなぎながら前進していこうというチームが増えた。その結果、序盤の蹴り合いは減ってハイプレス対ビルドップの構図が定番化している。

 しかし、序盤を過ぎるとハイプレスの強度が落ちてくる。そこからはボールを保持しているほうが優位になる。強引にハイプレスを続けるのはリスクになり、ハーフウェイライン付近までいったん引き、ブロックを形成して待ち構える守備に移行する。試合全体では後半15分あたりでハイプレスは激減、ミドルゾーンの守備が中心になっていく。さらに押し込まれると自陣ペナルティーエリアのすぐ外にディフェンスラインが下がり、いわゆる「バスを置く」守り方になる。

 かつてはFCバルセロナが徹底的なボール保持とハイプレスの組み合わせだけで、ほぼ90分間を完結していたが、そういうチームは少なくなった。あるいはそのような展開を意図しなくなっている。

高強度のハイプレス、ミドルゾーンのブロック守備と引いた5バックも強固

 今季のアトレティコが強力に見えるのは、ハイプレスから自陣に引く守備まで弱点がなく、攻撃もビルドアップとカウンターアタックの両方に威力があるからだろう。

 ラージョ戦では果敢に仕掛けてくるハイプレスを速いショートパスでいなし、カウンターに結び付けていた。アトレティコはポジションの可変で優位性を出すというより、パススピードの速さでプレスを外せていた。そのまま押し込み、奪われたあとのハイプレスも強度が高かった。

 60分経過して守備がミドルゾーンに移行した時もアトレティコの守備には機能的で安定感があった。これは強豪チームには比較的珍しいかもしれない。保持力が強力なチームだと、そのままハイプレスで奪えてしまえるせいか、ミドルゾーンに構える守備がそこまで強くないからだ。ハイプレスを外されたら、ミドルゾーンにブロックを構築する前に中盤を通過されてしまうので、あまりミドルゾーンの守備に習熟していないのかもしれない。アトレティコはミドルゾーンのブロック守備が強く、引いた時の5バックも隙がなかった。

 グリーズマン、デパイ、モラタなどが仕掛けるカウンターも鋭く、90分間のどの局面でも困らない設計になっているようだ。

西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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