香川真司がいれば「何か起きるのでは…」 “元代表10番”からC大阪への苦言「ドンマイじゃ済まされない」に秘めたもの【コラム】
かつて日本代表の10番を背負った男が13年ぶりJで存在感
日本代表ボランチMF遠藤航がリバプール移籍を発表してからわずか1日、8月19日のボーンマス戦でいきなりプレミアリーグデビューを飾った。
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30歳で名門移籍を勝ち取った森保ジャパン(日本代表)現キャプテンの躍進に大きな刺激を受けているのが、かつてユルゲン・クロップ監督の下で世界を驚愕させた男・香川真司(セレッソ大阪)だ。20日には横浜FCとのアウェー戦が控えていたが、日本時間深夜のライブを見入ってしまったという。
「もう航はクロップが大好きなタイプの選手。全然やれると思う。ああいう選手が活躍してほしいし、必ずやれる。(リバプールはチェルシーのモイセス・)カイセドを獲れなかったけど、航で十分補えると思うんで、それを証明してほしいと思います」と2014、18年のワールドカップ(W杯)の代表10番は4つ下の後輩にエールを送っていた。
その香川自身もご存じのとおり、今年2月に復帰した古巣C大阪ではボランチを務めている。
シーズン序盤はアンカーの原川力(現FC東京)の前に奥埜博亮とインサイドハーフで並ぶ中盤を形成。香川が舵取り役を担うことで、原川の守備強度が増し、奥埜の推進力が高まるといったプラス効果が見られていた。その後、原川と奥埜が揃って離脱した6月以降は、23歳のアカデミー出身・喜田陽とのコンビがチームのベースになっていった。
「陽は縦パスを入れられるし、ボールも持てる選手」と香川は評したが、その特徴を最大限引き出すべく、自身が引き気味の位置で喜田をフォローし、バランスを見ながらゲームを作っていくという意識が横浜FC戦でも色濃く見られた。
喜田も「真司君は試合の数だったり、経験してるものが違うので、この場面でこういうプレーをチョイスするんだということはすごく学びになってます」と前向きにコメントしていた。香川の存在は若手の成長にもつながっている。これは意味あることなのだ。
決勝点になった後半4分のレオ・セアラのゴールシーンも香川が起点となった。左サイドでボールを受けたカピシャーバは縦にドリブルで突破。最終的にレオ・セアラが合わせる形だったが、それをお膳立てした香川のパスには先を見る戦術眼が凝縮されていた。
ニッパツ三ツ沢球技場まで視察に訪れた日本代表の森保一監督も「得点の時も真司が受けて、中央でボールを散らしながら、そこからの展開だったと思いますが、狙いどおりにサイドにいったんオープンに展開してから得点が生まれた。落ち着いてボールを動かしてくれる彼がいることで、攻撃がより機能しているのかなと感じます」と絶賛していた。
「百戦錬磨の34歳」は高みを目指して最後まで戦い抜く覚悟を顕示
このワンシーンを見れば、香川の存在価値の大きさがよく分かるはず。もちろんそれ以外のプレーも含めてだが、「ピッチ上の指揮官」と言っても過言ではないだろう。「百戦錬磨の34歳のMFがいれば何かが起きるのではないか」という気にさえなってくるほどだ。
終盤は防戦一方になりながら、何とか手にしたこの白星で、C大阪は勝ち点を39に伸ばし、6位に。首位を走る横浜F・マリノスとは同11差。残り10試合でこれだけポイント差があれば普通に考えればタイトル獲得は難しい。
ただ、残りカードには名古屋グランパス、ヴィッセル神戸、横浜FMなど上位対決が数多く残っている。ライバルに連勝し、数字を積み上げれば、何が起きるか分からない。ボルシア・ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドで頂点に立ってきた男は高みを目指して最後まで戦い抜く覚悟だ。
そのためにも、チーム全体のレベルや質を引き上げなければいけない。だからこそ、香川は公の場であえて苦言を呈するのだ。
「まだまだ安定したパフォーマンスって意味では、個人としてもチームとしても求めていかないと上には行けない。今シーズンは波があるんでね。次の試合(26日)の相手は名古屋だし、改めて継続できるかが本当に重要になってくる。そのためにも高いレベルで要求しなきゃいけない。そこはチームとしての大きな課題かなと思います」
確かにこの日のC大阪はシュート18本を放ちながら1点のみ。決定力不足が目につく状況である。「大事なのは最後の精度とクオリティー。ちょっとのズレが生じている。それは技術・集中力が求められると思うし、『ドンマイ』で済まされる問題じゃない」と香川は語気を強めたが、もっともっと1つ1つのプレーにこだわりと厳しさを持たなければいけないと言いたいのだろう。
それはC大阪のみならず、Jリーグ全体に向けてのメッセージではないか。今季は大迫勇也(神戸)や鈴木優磨(鹿島アントラーズ)ら欧州から出戻り組が結果を出しているものの、彼らに引っ張られているだけではリーグ全体の発展はない。13年ぶりに日本に戻ってきた香川はそう言いたいのかもしれない。
香川がいるだけでC大阪のサッカーは魅力的ではあるが、やはりほかのメンバーも突き抜けた個になることが肝要だ。最近好調の右サイドバック・毎熊晟矢、新加入の渡邉りょう、柴山昌也、若手のホープ・北野颯太ら期待すべき選手は少なくないだけに、尖った個がどんどん出てくるような集団になってほしい。彼らがJ全体にいい刺激を与えるような存在になってくれれば理想的である。
いずれにしても、エースナンバー8が元気にフル稼働しているうちに、悲願のリーグタイトルを獲得すること。それが彼らに課された命題と言っていい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。