なでしこジャパンW杯総括 「もう少し見ていたい」快進撃を支えた3つの理由と「世界一」へ足りないものは?【コラム】

ベンチメンバーと一体となりW杯を勝ち進んだなでしこジャパン【写真:早草紀子】
ベンチメンバーと一体となりW杯を勝ち進んだなでしこジャパン【写真:早草紀子】

W杯直前にギリギリで手にした守備の手応え「それくらい難しいシステム変更だった」

 なでしこジャパンの女子ワールドカップ(W杯)の戦いはベスト8という成績で幕を閉じた。大健闘と言っていいだろう。

 今大会は参加国が32か国に増え、東京五輪覇者のカナダをはじめ、強豪のブラジル、ドイツがグループリーグで姿を消す大波乱が起きた。そんななか、日本はグループCを無敗、無失点の首位で通過するという、かつてないほどの勢いでグループリーグを走り抜けた。

 日本の快進撃を支えたものは大きく分けて3つある。1つは守備の安定だ。昨年の11月に海外組も含めて行われたスペイン遠征で初めてイングランド、スペインというヨーロッパの強豪に3バックをぶつけた。この際には木っ端みじんに玉砕し、選手たちは一気に自信を喪失させた。W杯開幕9か月前のことだ。そこから守備陣の苦悩の日々が始まった。コンセプトどおりに前から奪いに行けば両サイドのスペースを突かれる。ボランチは広大なスペースを抱え込み、トップがカバーに入ればゴールが遠くなる。潮目となったのはパナマ戦だった。

 守備時は両サイドを下げた堅い5バック、攻撃時は3バックへと意識を変えたことで視界が変わった。パナマ戦での守備の意識に手応えを感じた選手たちだったが、それでもDF陣が距離感を確実に掴んだのはW杯初戦だった。

「本当にワールドカップに合わせたかのように(笑)。パナマ戦での感覚を生かせた初戦で……ギリギリすぎて遅いんですけど、それくらい難しいシステム変更だった」と、3バックを担う南萌華(ASローマ)は振り返った。

 守備ラインが定まれば、あとは相手に合わせて奪いどころを決め、どこからトップ3枚がプレスのスイッチを入れるのかが決まっていく。日本はW杯に入って“相手に合わせる”守り方を手に入れた。

面白いように生まれたゴール、ベンチメンバーも含めて本物になった「一体感」

 2つ目に挙げられるのはカウンター攻撃。プレスを連動させてボールを奪ったのち、これまではボールを失わないようにキープしつつ攻撃を組み立てていた。その間に奪い返されてカウンターを食らうことも多々あったが、今大会ではスピードを持つ宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)が絶好調。宮澤が裏へ抜け出せれば何かが起きる。

「自分たちもビックリしてます(笑)。今まで日本ができなかった形で、スピードのいる選手がいないとできない。ひなたがいるのでそこを使う意識がみんなの中にあることが大きい」と攻撃の起点となる長谷川唯(マンチェスター・シティ)も話す。ラウンド16まではこの形がハマっていたことで、面白いように得点が生まれた。

 そして3つ目が誰もが口にした“一体感”。そもそも熊谷がキャプテンを引き継いだ時から彼女が目指していたチームの形が「誰もが思っていることを言い合えるチーム」だ。その想いはあっても若手が言語化することは容易ではない。大会直前はまだチームの雰囲気を上げていくためのカラ元気も含まれていたが、初戦以降、この空気感は本物になっていく。

 筆頭に挙げられるのがベンチメンバーの行動だ。試合開始前には必ずベンチメンバーだけでも円陣を組み、「あとから出る自分たちがゲームを決めるんだ!」と声を掛け合う。池田太監督もスタメンを「先に出る人」、ベンチメンバーを「あとから出る人」と表現することからも、能力の差ではなく相手との相性でスタメンは決まるとベンチメンバーのモチベーションをキープしていた。

伸びしろたっぷりのなでしこジャパン、大いなる収穫のあった大会

なでしこジャパンにとっての伸びしろとは?【写真:早草紀子】
なでしこジャパンにとっての伸びしろとは?【写真:早草紀子】

 しかし、それだけでは足りなかったことも事実だ。ベスト4入りをしたのは、日本に勝ったスウェーデン、オランダに競り勝ったスペイン、ヨーロッパ王者のイングランド、PKを制した地元オーストラリアの4か国。どのチームも劣勢を跳ね返す勝負強さを持っているチームばかりだ。

 準備力、修正力を最大に発揮した日本だったが、あくまでもその強度は大会直前に整った第一段階だったことは否めない。逆を返せば、まだまだ伸びしろがあるということ。ここから先を狙うには、ベスト4に残ったチームのように相手の分析・対策を跳ね返す力が必要だ。日本が失った3点すべてに当てはまる“ケアするそのうえから叩き込む攻撃力”、日本が破れなかった“最大の脅威に仕事をさせない守備力”――これらは頂点を獲るチームの必須条件だ。

 あらゆる要素が合わさって「自分たちの心も動くチーム」(熊谷)が生まれた。もう少し見ていたいと思わせるチームとして終焉を迎えられたことは大きな自信を選手たちにもたらした。今大会までに日本がたどった道筋に間違いはない。むしろ、大いなる収穫のあった大会だったと言える。相手の想定を上回るその強度、バリエーションを増やすことが次なる目標、パリ五輪へとつながるはずだ。

(早草紀子 / Noriko Hayakusa)



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早草紀子

はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。

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