W杯敗退の瞬間に泣き崩れ…長野風花の止まらぬ涙と無念 絞り出した「すべてが足りなかった」【コラム】
失点の重みに愕然「自分のハンドで流れを悪くしてしまった」
ベスト4を懸けた戦いは甘くなかったということだ。スウェーデンは的確に日本を分析し、対策を施しながら、前半で一気に試合を決めにきた。
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「どうしてここまでカウンターがハマっているのか自分たちでも分からないくらいハマっている」と長谷川唯(マンチェスター・シティ)はカウンターによる決定力の高さを驚きとともに語っていた。
グループリーグで目覚めた日本のカウンター、ラウンド16のノルウェー戦でもその効果は発揮されたが、ラスト4チームに入るには、相手が立てる日本対策を跳ね返す手札がなかった。“なでしこが世界で戦うためのサッカー”に選手たちが手応えを感じ始めたのは大会に入ってから。チームの成熟度が準々決勝では露わになった。
前線からのプレスはハマらず、中盤は次第に後手を踏む流れに。なんとか奪えたとしても、サイドのスペースはしっかりケアをされ、ここまで日本を助けてきたカウンターを仕掛けられない。ボランチは攻守に翻弄された。なんとか引っかけたい長野風花(リバプール)も懸命に判断を巡らす。それでもスウェーデンのポジショニングは絶妙で日本のプレスをかいくぐる。
長野、いや日本の不運は1点ビハインドの後半立ち上がりの反撃に出るそのタイミングで、ゴール前の混戦でボールが長野の手に当たり、スウェーデンにPKを与えてしまったこと。「自分のハンドで流れを悪くしてしまった」(長野)。愕然とする長野はその失点の重みを背負いながらプレーを続けていた。
植木理子(日テレ・東京ベルディベレーザ)が得たPKの際には、こぼれ球に詰められるように、すぐそばで祈るように見守っていたが、キックが失敗に終わると長野の表情はさらに重くなる。林穂之香(ウェストハム・ユナイテッド)と交代してベンチに戻ってきた時には泣き出しそうだった。
バーを叩いた藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のFKもライン際でベンチメンバーとともに後押しする。林のゴールに沸き、試合が再開される間際までタッチラインサイドから最後まで動こうとはしなかった。「信じている仲間に託すだけ」(長野)。最後のホイッスルが吹かれた瞬間、長野は両手で顔を覆いその場に泣き崩れた。
成長も実感していた長野、W杯の最後はあまりにも苦しい49分間
準々決勝までは何度も相手の攻撃の芽を摘んできた。自分なりの成長も実感していた。ニュージーランドに入ってからは、「もう一度強い日本を見せたい」「このチームでまだまだサッカーがしたい」と嬉しそうに語っていた長野にとって、ハンド判定から終了までアディショナルタイム10分を含めてあまりにも苦しい49分間だった。
「すべてが足りなかった」と止まらぬ涙とともに言葉を絞り出した長野。代表に呼ばれ出した頃の自分を「何もかもがアマチュアだった」と言う。アメリカ、イングランドと移籍を重ね、力を蓄えて臨んだ今大会だったが、それでもまだ足りなかった。
このあと、彼女たちはすぐにパリ五輪予選へ視線を変えなければならない。しばしのあと気持ちを切り替えたら、この悔しさのすべてをピッチに落とし込んでほしい。次に彼女の頬を濡らすのは、歓喜の涙であるように。
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。