2023-24シーズン「ラ・リーガ」展望 王者バルサ、リーグ連覇へ懸念点も…久保擁するソシエダの立ち位置は?【コラム】
スペイン1部「ラ・リーガ」新シーズンを展望、V争いは3強軸に展開か
欧州5大リーグの新シーズンが、いよいよ幕を開ける。「FOOTBALL ZONE」では、各リーグの始動に合わせて特集を展開するなかで、ここではスペイン1部「ラ・リーガ」の2023-24シーズンを展望する。
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昨シーズンはシャビ・エルナンデス監督率いるFCバルセロナが、ライバルのレアル・マドリードに勝ち点10差を付けて優勝した。そうした結果もあってか、財政問題を抱えるバルセロナは開幕前の時点で大型補強に出ておらず、イン&アウトの少ない継続路線でどこまでライバルを上回れるかは注目ポイントだ。
懸案事項となっているのが、MFセルヒオ・ブスケッツ(→インテル・マイアミ)が去った中盤の構成だ。同じカンテラ出身のMFオリオル・ロメウが引き継ぐと見られるが、ある種“ブスケッツ・システム”とも言えた4-3-3のピボーテは足し算より、引き算で評価せざるを得ないポジションでもある。ロメウがいきなりブスケッツのように中盤を掌握することは難しいが、持ち上がっての強烈なミドルシュートなどもある。
彼が1人でブスケッツの代役を背負いこむ必要はなく、MFフレンキー・デ・ヨング、MFペドリ、新加入のMFイルカイ・ギュンドアンと役割をシェアしていけば良い。シャビ監督としても4-3-3に固執せずに、4-2-1-3やペドリをトップ下に置くダイヤモンド型の4-4-2など、開幕してしばらくは複数のシステムを使い分けて行く可能性もある。
エースのFWロベルト・レバンドフスキを擁する前線は右の主翼だったフランス代表FWウスマン・デンベレのフランス1部パリ・サンジェルマン(PSG)移籍が決定的と報じされるが、ブラジル代表FWハフィーニャがおり、戦術的なフィットに時間がかかるバルセロナの事情を考えても、この2年目のアタッカーが10得点12アシストの昨シーズンを上回る成績で、連覇に貢献する期待は高い。ただ、やはり全体的に戦力の底上げは重要で、FWフェラン・トーレスやFWアンス・ファティのさらなる成長が期待される。
そのバルセロナを追撃する一番手と見られるレアルだが、FWカリム・ベンゼマのサウジ移籍で前線の核になる存在を欠いているのが現状だ。7月30日に行われたバルセロナとのプレシーズンマッチでカルロ・アンチェロッティ監督はFWヴィニシウスとFWロドリゴのブラジル代表コンビを新加入のイングランド代表MFジュード・ベリンガムが操る布陣をテストしたが、チャンスの数では上回りながらも0-3の完敗を喫した。
続くユベントス戦ではヴィニシウスとFWホセルの2トップをスタメンで試した。後者は昨季のエスパニョールで16得点を記録しローンで古巣へ帰還。ポテンシャルに期待は寄せられつつも、FWの選手層としは国内外のタイトルを狙っていくには心許ない。左膝前十字靭帯断裂の重傷を負ったGKティボー・クルトワの代役獲得を含め、開幕戦後の駆け込み移籍が鍵を握るかもしれない。
昨季4位ソシエダは、D・シウバなき中盤の再構築が鍵に
そのレアルと勝ち点1差で3位だったアトレティコ・マドリードは、昨季後半戦で巻き返しを果たしたスカッドがベースとなるだろう。ディエゴ・シメオネ監督としても大きくテコ入れすることなく、MFコケを中盤の底の司令塔とする3-1-4-2を軸に、ソリッドな4-4-2をオプションとして戦って行くはずだ。2トップはフランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンを軸にFWアルバロ・モラタ、FWメンフィス・デパイ、FWアンヘル・コレアなど個性的なタレントが揃っており、指揮官の求める守備的なタスクをこなしながら、組み合わせによって多彩なフィニッシュを繰り出せる。
率直に優勝争いを予想するなら、やはりこの“3強”になってくるが、日本代表MF久保建英が主力のレアル・ソシエダも4位に躍進した昨シーズンから引き続き、上位戦線に食い込んでいくポテンシャルはある。ただ、心身両面でチームの支柱だったMFダビド・シルバがプレシーズンのトレーニング中に左膝の前十字靭帯を負傷。そのまま現役引退を表明したことにより、気鋭のイマノル・アルグアシル監督も中盤の構築にやや苦しんでいるよう見える。
久保はプレシーズンマッチのアトレティコ戦では4-3-3の右インサイドハーフとしてテストされたが、開幕前の最後のテストマッチとなった8月6日のレアル・ベティス戦では右ウイングに戻り、中盤はMFブライス・メンデス、DFウルコ・ゴンサレスが構える形で、MFミケル・メリーノは左ワイドからFWカルロス・フェルナンデスとFWモハメド=アリ・チョーをサポートするやや変則型の布陣で、1-0の勝利。久保も左サイドバックのDFアイエン・ムニョスによる決勝弾をアシストしている。
そもそもD・シルバの代わりが完全に務まる選手などいないので、違った特長と組み合わせで、攻守に機能的なオーガナイズを構築していけばいい。アルグアシル監督であればそれが可能だろう。ただ、ノルウェー代表FWアレクサンデル・セルロートがライバルのビジャレアルに引き抜かれた前線はナイジェリア代表FWウマル・サディクがすぐに完全復活できる気配もなく、しばらく得点力不足に陥る可能性もある。
そのほか、昨シーズンは屈辱的な12位に終わったセビージャの巻き返し、そのセビージャからベティスへ“禁断の移籍”をした元レアルのMFイスコが、アンダルシアの名門を躍進に導けるかも興味深い。セグンダで24ゴールを記録したアルバニア代表FWミルト・ウズニを擁する”昇格組”グラナダあたりがラ・リーガをかき回せば面白い。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。