なでしこ女子W杯の勝算は? 難敵揃いの決勝トーナメント展望…ノルウェーの強力アタッカー陣は要警戒【コラム】

決勝トーナメント1回戦でノルウェーと対戦するなでしこジャパン【写真:ロイター】
決勝トーナメント1回戦でノルウェーと対戦するなでしこジャパン【写真:ロイター】

決勝トーナメント突入の女子W杯は多くのサプライズが…

 オーストラリアとニュージーランドの共催で行われている女子ワールドカップ(W杯)は、なでしこジャパンが優勝候補のスペインに4-0と大勝し世界に衝撃を与えるなど、これまで多くのサプライズを生んでいる。過去2度の優勝を誇るFIFAランク2位のドイツをはじめ、東京五輪 の金メダリストである同7位のカナダ、南米王者の同8位ブラジルがグループリーグで敗退。2連覇中のアメリカも、ポルトガル戦で最後はゴールポストに救われるなど、E組でギリギリの2位通過となった。

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 その一方で43位のジャマイカがブラジルを敗退に追いやる形で同国初のグループ突破を果たし、54位の南アフリカが16位のイタリア、72位のモロッコがドイツを上回り、16強に進んでいる。今回は参加国が24から32に拡大した最初の大会で、正直、よりランキングが素直に反映される結果になると見ていたが、むしろ女子サッカーの国際的な成長を象徴する大会になっている。

 全体的に見ても、大差が付いた試合は本当に少ない。そうした結果と内容を踏まえて考察するならば、女子サッカーが国際的に成長していることに加えて、大会前に“弱者”と見られた国が実力を認識し、しっかりと相手を分析して、対策していることがサプライズ多発の大きな要因だろう。

 もう1つ言うなら、ドイツと同居したH組を首位通過した25位コロンビアや開催国オーストラリアに勝利した40位ナイジェリアのように、ランキングが本来の実力にマッチしていない国もある。代表チームの実力が男子よりもFIFAランキングに反映されやすいと考えられてきたが、ポイント加算の対象になる試合にばらつきがあり、ここも少し再考する必要があるかもしれない。

 そうした流れもあり16強は非常にバリエーション豊かな顔ぶれとなった。ここまでの戦いぶりから優勝候補の筆頭として挙げたいのは昨年の欧州選手権でも優勝したイングランドだ。大会前に複数の主力が怪我、そして欧州王者FCバルセロナ所属で、攻守の要であるMFキーラ・ウォルシュがデンマーク戦で負傷交代を強いられるなど、決して万全の状態ではない。それでもデンマーク、中国という曲者揃いのD組を3連勝で堂々の首位通過。代わりの選手たちが奮起しており、むしろ選手層の厚さを証明する結果となっている。

 欧州予選7得点のFWローレン・ヘンプ(マンチェスター・シティ)にも注目したいが、今大会のスーパーヒロインになる可能性が高いのは21歳の新鋭FWローレン・ジェームズ(チェルシー)だ。デンマーク戦で決勝ゴールを挙げると、中国戦でも2得点。4得点で得点ランキング首位を走る日本のMF宮澤ひなた(マイナビ仙台)、すでに敗退が決まったドイツのFWアレクサンドラ・ポップ(ヴォルフスブルク)に次ぐ2位に付けており、得点力に加え、突破力も特筆に値する。

 決勝トーナメントでイングランドはオーストラリアを会場とする反対側の山なので、ここからなでしこジャパンが対戦する可能性があるのはファイナルとなる。ただ、いきなり16強で躍進著しいナイジェリアと当たるため、欧州王者のイングランドといえども油断はできない。ナイジェリアは大エースのFWアシサト・オショアラ(バルセロナ)がおり、大会前には同国の低い下馬評に反論するコメントを出していた。イングランド対ナイジェリアは16強の中でも大注目の試合だ。

“スーパータレント軍団”スウェーデンは、イングランドと並ぶ優勝候補

 筆者が優勝候補イングランドの対抗馬として挙げたいのはFIFAランク3位で、世界屈指の“スーパータレント軍団”スウェーデンだ。ただし、16強で本来の大本命であるアメリカが立ちはだかる。ここまでのチーム状態を見るならグループリーグ3連勝で9得点1失点という圧倒的な数字を残しているスウェーデン有利だが、何といっても大会連覇中のアメリカには実績と経験がある。なお、東京五輪の1次リーグではスウェーデンが3-0と勝利。アメリカの無敗記録が44でストップした試合でもあった。

 スウェーデンはエースのFWスティナ・ブラックステニウス(アーセナル)が1得点と、エンジンがかかり切っていない状態だが、ディフェンスの大黒柱であるDFアマンダ・イレステット(アーセナル)が178センチのサイズを発揮して、セットプレーから3得点を記録している。また左ウイングから圧倒的な突破力を見せるFWフリドリーナ・ロルフォ(バルセロナ)も2得点しており、ノックアウトステージでさらなる活躍が注目されるアタッカーだ。

 一方のアメリカは、現時点で特筆するべきパフォーマンスを発揮できていない。実績では世界ナンバーワンのストライカーであるFWアレックス・モーガン(サンディエゴ・ウェーブ)も相手の厳しいマークにあって不発となるなか、10番を背負う大型MFであるリンジー・ホラン(ポートランド・ソーンズ)が2得点をマーク。そして、なかなか攻撃が機能しない状況で、左サイドの仕掛け人であるFWソフィア・スミス(ポートランド・ソーンズ)が鋭いドリブルで相手ゴール前を切り裂き、クラブの同僚でもあるホランと同じく2ゴールを挙げている。

 そのホランが現地観戦に来ている代表OBの苦言に反論したという報道もあるが、スウェーデンという最大級の相手にアメリカの火が付くか、このまま沈んでしまうかは大会の行く末を大きく左右するポイントだろう。スウェーデンとアメリカ、どちらが勝ち上がるにしても現在FIFAランク11位のなでしこジャパンにとってビッグチャレンジとなるが、その前に倒さないといけない相手がいる。第2回大会の優勝国でもある12位のノルウェーだ。

日本のベスト16対戦国ノルウェーは、攻守のクオリティーが光る難敵

 過去8回行われている女子W杯で優勝国は4つしかない。アメリカ(優勝4回)、ドイツ(同2回)、そして日本とノルウェー(それぞれ同1回)だ。かつて日本女子サッカーチーム(日興證券ドリームレディース)在籍歴のあるヘゲ・リーセ監督は1995年に行われた第2回女子W杯の優勝メンバーだ。チームのカリスマでもある指揮官が率いるノルウェーは前線に高い身体能力とテクニックを併せ持つアタッカーが揃っており、特に右ウイングのFWキャロライン・グラハム・ハンセン(バルセロナ)は超の付くワールドクラスだ。

 またイングランドのウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)で4連覇を果たしたチェルシーに所属するキャプテンのDFマーレン・ミェルデは統率力が高く、0-0に終わったスイスとの試合でも圧倒的な突破力を誇るFWラモーナ・バッハマン(パリ・サンジェルマン)を擁する強烈なアタッカー陣を相手にゴールを割らせなかった。ここまで3試合で11得点と爆発しているなでしこジャパンの攻撃陣を持ってしても、そう簡単に攻め崩させてはくれないだろう。

 もちろん厳しい戦いになることはなでしこジャパンの選手たちも認識しており、スペイン戦の大勝に喜びはしても、浮かれる様子は全く見られない。熊谷紗希キャプテンも「ノルウェーはスペインよりは持たれないと思います。だけどやっぱり、右サイドのFW含めて、いい選手がたくさん前にいる。どこを大事にして守るかというところはもう1回、チームとして作戦会議をしないといけない」と引き締めている。

 それでも大手ブックメーカーなど、国際的な下馬評で大会のダークホースの1つに過ぎなかった日本が、ここに来て優勝の有力候補として注目度を上げているのも事実だ。16強でノルウェーを撃破すれば、決   勝カードでもおかしくないスウェーデンとアメリカの勝者が待つが、逆にそこを突破できれば、ベスト4ではスペインとの再戦も含めて、チームが一丸となって悲願のファイナルに挑むことができるだろう。

 なでしこジャパンが勝ち上がった場合に最高のファイナルを楽しむ意味でも、ノックアウトステージのすべての試合に注目してほしい。

■ベスト16カード
スイスvsスペイン
日本vsノルウェー
オランダvs南アフリカ
スウェーデンvsアメリカ
イングランドvsナイジェリア
オーストラリアvsデンマーク
コロンビアvsジャマイカ
フランスvsモロッコ

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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