J2磐田、なぜ昇格圏内浮上に成功? 補強禁止処分もタレント成長…「プラス材料」生んだ元A代表コーチの手腕【コラム】

自動昇格圏内まで浮上した磐田【写真:Getty Images】
自動昇格圏内まで浮上した磐田【写真:Getty Images】

直近の連戦で負けなし、今季就任した横内昭展監督の手腕にフォーカス

 J2ジュビロ磐田は現在、勝ち点47でリーグ2位。1試合少ない首位のFC町田ゼルビアとは勝ち点7差でまだまだ離れているが、およそ3分1のシーズンを残す現段階で自動昇格圏内まで浮上したのは高評価に値する。

周知のとおり、磐田はFWファビアン・ゴンザレスの移籍を巡り、外部からの選手登録が1年間禁じられるペナルティーをFIFA(国際サッカー連盟)から科されている。そのファビアン・ゴンザレスも4か月の出場停止を受けて、5月中旬から公式戦に復帰できた。

 昨年は3年ぶりにJ1挑戦となったが、1年でJ2に出戻りとなったところに、ペナルティーが重なってしまった。磐田を立て直しているのは藤田俊哉スポーツダイレクター(SD)、そしてその藤田SDが「この人しかいない」と、代表スタッフ時代からのパイプで引っ張ってきたのが横内昭展監督だ。

 横内監督のことは日本代表のコーチ時代から知っているが、熱血漢で、明るいキャラクターだ。カタール・ワールドカップ(W杯)までA代表の森保一監督を参謀として支えたが、東京五輪までA代表と五輪世代の活動が日程的に被ることが多く、当時の横内コーチが監督代行として指揮することも多かった。

 特に準優勝した2019年のトゥーロン国際トーナメント(現・モーリスレベロ・トーナメント)と同年、アウェーでブラジルを破った南米遠征は“横内監督”の手腕が発揮された。トゥーロンとほぼ同時期にコパ・アメリカを戦っていた森保監督もプランや情報の共有はするが、基本的に現場のことは横内監督に一任していたと聞く。

 横内監督はA代表の中心的な存在になった三笘薫をはじめ、中山雄太、上田綺世、田中碧、旗手怜央など、ステップアップした多くの選手の成長を助けた。だが彼らを「指導した」ではなく「一緒に仕事をさせてもらった」と振り返る。

 森保監督も「横内さんとやってきたことは、いつも私自身が判断に揺れている時に、『こうじゃないのか』という覚悟を持った進言、提言をしてくれるので、すごく助かっていました」と感謝しつつ、監督としての新たな挑戦に「勇気を持って戦ってほしい」とエールを贈っていた。

 そんな横内監督は就任1年目となる鹿児島キャンプで徹底して個人戦術や基本的な球際、切り替えを徹底的に意識付けた。「個人戦術のベースがなければ、チーム戦術も積み上がっていかない」と横内監督。個人戦術が身に付いていないうちにチームを作り込んでしまうと、選手の伸びしろが失われてしまうと考えている。

「戦術で選手の個性を殺したくない」。これは横内監督のモットーである。序盤戦はなかなか結果が付いてこず、その中で4月にルヴァン杯を含む9連戦を迎えたことは磐田にとって非常に苦しかった。しかし、今思い返せばあの経験が選手たちをタフにしたし、横内監督が選手たちのキャラクターを掴むことにもつながったようだ。

基本コンセプトを共有させながらも、選手の特長が発揮されるように設計

 選手の個人戦術を伸ばし、そこにチーム戦術を融合させてきた大きな成果が、グループステージ4連敗で迎えたルヴァン杯のラスト2試合、アウェーのサガン鳥栖戦と北海道コンサドーレ札幌戦での2連勝にも表れた。そして6月25日のロアッソ熊本戦から天皇杯のヴィッセル神戸戦を挟み、前節の藤枝MYFCとの“静岡三国決戦”までの7連戦で、磐田は勝ち点14を積み上げ、ジャンプアップを果たす。

 この間、磐田は天皇杯で神戸に2-5で敗れたものの、リーグ戦で4勝2分という成績を残した。スタメンで起用された選手は23人。しかも22人が複数試合で先発起用されているのだ。中3日、中2日で来る試合にほぼターンオーバーで臨んだが、4バックと左右サイドバックとサイドハーフの縦ラインはまるでフットサルのように、同じセットで起用した。

 ターンオーバーにはいくつかのメリットがある。もちろん体力的な理由もあるが、チーム内競争は常にありながらも、多くの選手が試合に絡むことで、一体感が生まれやすいのだ。しかも、試合ごとにスタメンが入れ替わるので、相手に対策されにくい。横内監督はチームの基本コンセプトを共有させながらも、選手の特長が発揮されるように設計しているので、その効果は大きい。

 それに加えて、同じセットを送り出すもう1つの理由がある。過密日程というのは練習時間が非常に限られる。同じセットで起用することで、連係を高め、維持しながら乗り切ることができるのだ。おそらく7連戦を終えて、中6日で迎える7月23日のザスパクサツ群馬戦に向けては改めて競争を促しながら、組み合わせも見直しているはずだ。

 首位の町田を含む、昇格を争うライバルの多くが夏の補強に動くが、磐田にはそれができない。しかしながら、パリ五輪世代のDF鈴木海音や20歳のMF古川陽介など開幕の頃から比べて明らかに成長した選手がおり、FW後藤啓介の台頭やファビアン・ゴンザレスの復帰に刺激を受けたFWジャーメイン良の奮起など、今後の躍進に向けたプラス材料は多い。

 ここから、さらに加熱する昇格争いのなかで、横内監督が率いる磐田はどんな成長を遂げるのか。これは来シーズンにつながる挑戦でもある。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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