J1クラブ「今夏補強ポイント」考察 川崎、広島、札幌、FC東京…躍進狙う中位6クラブの“穴”は?【コラム】
7位から12位の“第2グループ”に焦点を当て、補強プランを探る
J1リーグは第21節まで終え、中断期間に入った。7月22日に行われる第16節延期分・ヴィッセル神戸対川崎フロンターレを除き、次節は8月5日、6日に行われる。中断期間中、海外クラブとの親善試合を行うクラブもある一方、多くのクラブにとって残り13試合に向けて大事なテコ入れ期間となる。特に注目されるのが夏の補強だ。
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
このコラムでは7位から12位の“第2グループ”に絞って、上位躍進のために“穴”となっている補強プランを探りたい。選手の第2登録期間は7月21日から8月18日となっており、J1でもすでにいくつか補強は伝えられているが、リリースが本格化するのはここからだろう。
7位の川崎は横浜F・マリノスとの大一番に勝利し、翌16日には晴れやかな気持ちで後援会の“ファン感謝デー”に臨めたが、仮に22日のアウェーゲームで神戸に勝利しても、まだ勝ち点9差がある。9月にはAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)もスタートするなかで、奇跡的な王座奪還に向けて必要な補強は施したい。
言ってしまえばDF、MF、FWにそれぞれ補強が必要だ。FWはレアンドロ・ダミアンが6月に左足関節捻挫が伝えられるなど、完全復活に向けて状態が戻っていない。小林悠も6月に負った肉離れの怪我から回復途上にあると見られる。さらに左サイドの仕掛け人であるFWマルシーニョも5月下旬の負傷からもうしばらくかかると見られる。
中盤はMFチャナティップがタイのBGパトゥム・ユナイテッドFC、MF小塚和希が韓国の水原三星ブルーウィングスに移籍。さらに“V字浮上”の立役者の1人だったMF大島僚太が、右太ももの肉離れで再び離脱してしまった。最終ラインは最悪の状況こそ脱したが、常に複数人が怪我でいない状況が続いている。
そうした意味で、そもそも人が足りていない状況で、ここまで怪我なく来ている主力選手は負担が大きく、勤続疲労を起こしている危険もある。そうした頭数をカバーできるだけでもプラスになるが、それだけでは神戸や2位の横浜F・マリノスを逆転するまでは難しい。
今季の川崎に関しては従来どおりボールを持つところまではできても、チャンスメイクからフィニッシュに至るところで迫力不足があり、守備が揃っていると崩せない問題がある。しかも、そこを突破しようとしたところでボールを奪われると、裏返しのカウンターでピンチを迎え、何とか凌いでも2次攻撃に後手を踏んでしまうのが、ある種の“負けパターン”となっている。
そこを良い方向に導くにはサイドから違いを生み出せるアタッカーが必要だ。マルシーニョの復帰まで何とか耐えるという方法だと、右サイドのMF家長昭博に負担がかかりすぎる。中盤の攻撃的なタレントの中でもできればスタメン争いできる実力者クラスがほしい。
最終ラインはDF高井幸大の成長でスタメンのベースアップはされている。戦術理解に少し時間がかかるポジションでもあるので、センターバック(CB)と左右サイドバック(SB)をこなせる18歳DF松長根悠仁を思い切って使っていくのも良いと思うが、ACLを見越すと今の段階から外国人DFを補強することで、今年はもちろん来シーズンのリーグ戦やACLの後半戦に大きなプラスになるかもしれない。
代表クラス満田の離脱が響いた広島、上位進出へのポイントは?
8位のサンフレッチェ広島は何と言っても日本代表候補であり、上位争いへのキーマンの1人となるFW満田誠の怪我がずっと尾を引いてしまっている。すでに実戦復帰しているDF塩谷司、FWピエロス・ソティリウを加えた3人が離脱したことに関してはミヒャエル・スキッベ監督も嘆きを隠さないが、上位を争うライバルに複数の怪我人が出ていないチームなどいない。その影響がパフォーマンスに直結してしまっているという意味では顕著だ。
塩谷とソティリウは横浜FC戦で復帰、ソティリウは終盤の投入に応えて、後半アディショナルタイムにチームを救う同点弾を決めた。だが前線にパワーを加えられるFWの補強があればベターだ。ディフェンスに関しては大卒ルーキーDF中野就斗の存在もあり、絶対に不可欠とは言えない。ルヴァンも天皇杯も敗退してしまい、浦和のACL優勝によって9月からのACL出場もなくなったので、リーグ戦で上位に食い込むための補強があればベストだ。
9位のサガン鳥栖は前半戦の状況を考えれば、FW富樫敬真やFW横山歩夢といった怪我人も戻り、戦い得る体制になってきた。それでも躍進への大きな転換点になり得た7月16の神戸戦で1-2と敗戦。戦力が整ってきたからこそ上位の壁を痛感したのではないか。ただし、鳥栖の場合は決して資金が潤沢ではなく、むしろ引き抜かれる側になることも少なくない。
7月17日には数年来CBの主力として支えてきたDF田代雅也がアビスパ福岡に移籍することがリリースされた。確かに現在はDFファン・ソッコとDF山﨑浩介で定着しているが、ファン・ソッコも5月に復帰してきており、このままだと最終ラインが綱渡り状態になってしまう。もちろんボランチと兼任のMF島川俊郎や天皇杯のロアッソ熊本戦でスタメン起用されたDF坂本稀吏也など気鋭の若手もいるが効果的な補強があるかもしれない。
中盤から前線にかけてはベースが出来ているので、ルヴァン杯も天皇杯も敗退し、リーグ戦に専念できる状況を考えると、むしろ選手層を意識するというより、勝負のための違いを生み出せるタイプの選手を狙うのではないか。FWで言えば高さが足りておらず、MF小野裕二を筆頭に富樫、FW河田篤秀と頭数はいるので、編成も考える必要はある。
さらなる強化で上位狙う札幌は“ミシャ式”への適応が難点
その鳥栖から田代を獲得した10位の福岡はDF宮大樹とDF三國ケネディエブスの怪我というチーム事情もあるが、ルヴァン杯も天皇杯も残しており、現実的にタイトルを狙うならカップ戦ということになる。もちろんリーグ戦で1つでも順位を上げていくことを並行しながらになる。ターンオーバーまでは行かないが、MF井手口陽介とMF前寛之という自慢のボランチコンビを擁する中盤でも、補強があるかもしれない。外国籍枠に関してはDFドウグラス・グローリ、FWルキアン、FWウェリントンのみで、枠をまだ残している。個人で違いを出せるサイドアタッカーを加えられたら下から3番目という得点力をアップできるはず。
11位の北海道コンサドーレ札幌は大型FWの中島大嘉が名古屋グランパスに期限付き移籍。さらに右サイドの重要な主力であるMF金子拓郎のクロアチア1部ディナモ・ザグレブ移籍が決定的となっており、すでにファン感謝祭の「サポーターズデー2023」で、移籍を決断したことが本人の言葉で伝えられた。特に金子の右サイドに関しては穴埋め的な補強も考えられる。もちろんFW菅大輝とMFルーカス・フェルナンデスでファーストセットは成り立つが、そもそも菅は3バックの左とのマルチで起用されており、菅が下がればルーカスが左ウイングバックで起用されるというオーガナイズで回ってきた。
ここまでルヴァン杯や天皇杯での起用が続いたMF田中宏武のリーグ戦でも抜擢は既定路線だが、札幌の場合は福岡と同じく、2つのカップ戦を勝ち上がっており、今後リーグ戦と同じか、それ以上に重要になってくる可能性も考えられる。金子ほどのドリブラーは国内にはなかなかいないが、サイドで縦に仕掛けられるタイプの選手が欲しいところ。百戦錬磨のミハイロ・ペトロヴィッチ監督だけに、何か周囲を驚かせる起用法もあるかもしれないが。
札幌に関しては得点の多さと並行して、失点の多さが懸念事項になるが、これは選手を替えたから改善されるポイントというわけでもない。むしろマンツーマンを主体とした守備のなかで、試合を重ねながら3バック中央のDF岡村大八を中心に、多少アドリブを付けられるようになって来ているので、新戦力が入ると逆に失点が増えるリスクもある。
もちろんトップレベルの外国人選手が来たとしても、“ミシャ式”に適応するには時間がかかるので、そこのリスクとの向き合い方は難しいところだ。ただ、金子の移籍で菅がよりウイングバックに専念しないと行けない事情も考えると、成長著しい22歳のDF中村桐耶を3バック左で定着させられるように、人に強いボランチを加える手はある。
FC東京、ボランチ安部柊斗が抜けた穴の補強が先決
FC東京はすでにポルトガル1部サンタ・クララに所属していたFW田川亨介の復帰、京都サンガS.C.から右SBの白井康介の加入がリリースされている。あとは8月2日の天皇杯ラウンド16熊本戦までに、彼らがどこまでフィットできるかが注目される。リーグ戦はヨドコウ桜スタジアムで行われる8月6日のセレッソ大阪戦でリスタートするが、ここで勝ち点を逃すようだと終盤の追い上げが苦しくなる。
アルベル前監督からピーター・クラモフスキー監督に代わっているので、ボールを握って相手ディフェンスを崩す基本コンセプトは共有するものの、システムも4-3-3から4-2-1-3になり、ビルドアップのオーガナイズなども変わっている。それに応じた補強はすでに考えているはずだ。
MF安部柊斗のベルギー1部RWDモレンベーク移籍が決まったボランチは補強の第1ポイントであり、基本的な守備の強度を維持しながら、攻撃を組み立てられる選手が欲しいところ。MF松木玖生に関しては今のところ欧州移籍の具体的な進展は報じられていないが、どちらにしてもボールを奪えて、ボックス・トゥ・ボックスの動きで攻守に関われる選手は現在のスタイル的にターゲットだろう。
2列目から前もできれば崩しの起点になれるMFを加えたいが、クラモフスキー監督がMF東慶悟のトップ下などを試合で使いながら見極めている段階だろう。ボランチの補強が先決と見られる。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。