熾烈なJ1昇格争い、磐田は夏の上昇気流を描けるか 手痛いドローも成長を裏付ける“2つの根拠”

磐田はリーグ戦22節を終え4位につけている(写真はイメージです)【写真:Getty Images】
磐田はリーグ戦22節を終え4位につけている(写真はイメージです)【写真:Getty Images】

【識者コラム】横内昭展監督の下で再起を図る磐田、起用法とパフォーマンスに変化

 ジュビロ磐田は7月1日のJ2リーグ第23節でヤマハスタジアムに2位の大分トリニータを迎えたが、結果は1-1の引き分け。他会場でV・ファーレン長崎が敗れたため、総得点差で4位に浮上したものの、昇格戦線を考えれば上位との勝ち点差を詰めるチャンスだっただけに、勝ち点2を失ったと言ってもいい。

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 記念すべき300試合で今シーズンの3点目となる同点弾を決めた鈴木雄斗も「本当、落とした……落としたって感じですよね。みんなの試合終わったとの表情とか見ても」と振り返り、前節の甲府戦に続くもったいない引き分けに肩を落とした。

 ただ、昨シーズン1年でのJ2降格を経験し、日本代表コーチとして“森保ジャパン”を支えた横内昭展監督の指導で、再起を図る磐田としては4月1日の大分戦から、チームがかなり前進していることを裏付けるエビデンスもあった。

 1つは選手の起用法。J2では清水エスパルスと2クラブだけ参戦していたルヴァンカップによる日程調整で、7連戦の渦中にある磐田は平日開催の甲府戦から中2日で大分戦に臨んだ。

 横内監督は甲府戦からGKの三浦龍輝をのぞく10人のスタメンを変更して、大分に挑んだのだ。ほぼターンオーバーと言える布陣だが、21試合にスタメン出場の鈴木をはじめ先発で起用された経験のある選手ばかり。むしろ、どちらかと言えば甲府戦の方が、ルヴァンカップなどでアピールした選手が多めだったが、どちらにしても甲乙が付け難い。

 横内監督も「誰が出ても攻守のベースは落とすことなく、そこに個人のスペシャリティーを輝かせてほしい」と語るように、ライバルより厳しい日程を逆利用する形で、ルヴァンカップではJ1の強豪に正面からぶつかり、前後のリーグ戦では積極的にメンバー入れ替えを行うなど、選手層を底上げしてきた。

 もう1つはパフォーマンス。ホームとはいえ、大分を相手に12本のシュートを記録した一方で、3本しか許さなかった。その1つが前半42分に一瞬の隙を突かれる形で、中川寛斗の縦パスから抜け出した松尾勇佑にスーパーゴールを決められたが、ゴール前の迫力は時間が経つほど磐田が上回り、ここまで5得点の後藤啓介をはじめ古川陽介、ファビアン・ゴンザレスという個の力が強いアタッカーを投入して、終盤は磐田が押し込む側になった。

山田大記はチームの成長を強調「テクニカルなところに課題が移っているのは良い事」

 大分の下平隆宏監督は上位対決で勝ち点3を持ち帰れないことを悔やみつつも、後半の内容を考えれば「選手たちは最後までよく身体を張って、ゴールを守ってくれた」と磐田の攻勢を認めていた。

 一方の横内監督はこれまで求めてきた強度の部分に手応えを感じながらも、突き詰めればクオリティーの問題が明確であり、何度か大分が自陣のミスでプレゼントしてくれたショートカウンターのチャンスを最後の精度不足で逃してしまったことも、勝ち切れなかった要因に挙げていた。

 4-2-3-1のトップ下でスタメンに名を連ねたキャプテンの山田大記は、「フィジカル的なところにフォーカスしてきて、テクニカルなところに課題が移ってきているというのはすごく良いことだとは思います」と語り、チームの成長を強調する。今シーズンは国際サッカー連盟(FIFA)からのペナルティーにより、選手の補強ができない磐田にとって、後藤のような若手を含めて選手が横内監督の高い基準に向き合い、レベルアップすることでしか昇格への道は開かれない。

 その意味ではまだまだ道のりは険しいが、チームが確かに前進していることを感じられた大分戦だった。敵将の下平監督は年2回の直接対決を終えた磐田について「必ずシーズン終盤まで昇格争いに絡んでくると思う」とリスペクトの言葉を残したが、その大分はもちろん首位を走る町田、3位の東京ヴェルディ、さらに長崎、甲府、清水など、昇格争いのライバルは手強い。徳川家康ゆかりの地から磐田が再びJ1の舞台に返り咲けるか。運命の鍵を握る夏場の戦いはここから始まる。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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