なぜイニエスタに日本は居心地が良かったか 神戸時代の同僚が語る“自然体”の姿

イニエスタの元同僚であるFC岐阜の元日本代表・田中順也【写真:高橋 学】
イニエスタの元同僚であるFC岐阜の元日本代表・田中順也【写真:高橋 学】

【インタビュー】田中順也はイニエスタのサッカースタイルを「究極形」と表現

 ヴィッセル神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタは、7月1日に行われるJ1リーグ第19節・北海道コンサドーレ札幌戦が神戸でのラストマッチとなる。2018年5月の加入決定から5年、日本サッカー界への貢献は計り知れない。「FOOTBALL ZONE」では、世界的名手の功績にスポットライトを当てた特集を展開。かつての同僚であるFC岐阜の元日本代表FW田中順也に、イニエスタのエピソードを訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)

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 スペイン1部の名門FCバルセロナのレジェンドであり、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ、ブラジル代表FWネイマール、元ブラジル代表FWロナウジーニョ氏、元スペイン代表MFシャビ氏(現バルセロナ監督)といったスーパースターたちと共闘してきたイニエスタが、Jリーグでプレーすることが決まった際、驚きや歓喜の声で日本サッカー界は大いに沸いた。

 34年間、スペインで生活を続けてきたなかでの海外挑戦。それでも、イニエスタは持ち前のテクニックを生かした華麗なプレーでファンを魅了し、Jリーグの価値を高めた。2018~21年に神戸で共闘した田中は、イニエスタの“不変の姿勢”を感じたという。

「世界的名門のバルセロナからヴィッセルに来た時、少なからずやりづらさとか、いろいろあったと思います。でも一切文句を言わず、プレーで周囲を引っ張り続けてくれました。動いてほしいところに味方が動くまで、ひたすらプレーし続ける力をすごく感じました」

 イニエスタのプレーの凄みは誰もが知るところだが、「サッカーが言語というか、言葉はいらない」次元の“究極形”だと田中は語る。

「アンドレスで印象に残っているのは、具体的に指示を出すとかは少ないんですけど、アンドレスがこうしたいから味方はこう動くというのをプレーで教えられる人なんだなって。相手の嫌なところに立っていなかったり、動き出してなかった時にはパスを出してこない。相手の嫌なところを探して積極的に動いた時に、足元にボールがピタっと入ってきます。だから、彼が面白いと思ったところを突いていかないといけない。それを言葉ではなく、プレーで味方に示してくれる。いわば“究極形”ですよね」

家族と写真を撮るイニエスタ【写真:Getty Images】
家族と写真を撮るイニエスタ【写真:Getty Images】

天皇杯優勝のみならず、イニエスタからのアシストすべてが「財産」

 田中が2021年限りで契約満了により神戸を離れる際には、イニエスタから「今まで一緒にプレーしてくれてありがとう。どこに行っても応援をしているし、いいキャリアになることを願っている」と声をかけられたという。良好な関係を築いた田中にとって、イニエスタとの印象的な思い出とは――。

「(2019年度の天皇杯の)タイトルを獲れたこともそうですし、アンドレスにお膳立てしてもらったゴールすべてが僕にとっては財産です。例えば、(19年のJ1第24節サガン)鳥栖戦のゴール、(同年J1第28節サンフレッチェ)広島戦のゴール……。数は多くないですけど、練習試合も含めてアシストをしてもらったということがもはや人生の財産。一緒にプレーできた選手たちにとって、アンドレスがそういう存在であるということがほんとにありがたい限りです。

 アンドレスは、僕がバルセロナに行くから試合のチケットを手配してくれないとお願いしたら、快く手配してくれました。おかげで(2018年の)バルセロナとトッテナムのチャンピオンズリーグの試合を見ることができて。恐縮ながら、アンドレスを使わせていただきました(笑)。彼からの“プレゼント”ですね」

 イニエスタは神戸の街だけでなく、大阪や京都、名古屋などを家族と訪れ、日本での生活を楽しんできた。田中も「たくさん旅行をして、アンドレスは日本をすごく楽しんでいましたね」と証言する。

「文化の違いを楽しんでいる風景はいつも見ていました。おそらくバルセロナだとたくさん声をかけられすぎて、街を歩けないでしょうけど、神戸は落ち着いた街で、街中で買い物してたり、三宮を歩いているのを見ていたので、そういうところがアンドレスにとっては心地良かったんじゃないかなと思います」

イニエスタがプレーした5年間で「Jリーグのレベルも上がっている」と再認識

 田中は、Jリーグで5年間プレーしたイニエスタの日本サッカー界への貢献に敬意を表しつつ、一緒にプレーできたことに感謝の言葉を述べる。

「アンドレスが来てくれたことで、ヴィッセル神戸の名前も世界的に認知されたと思います。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出たり、Jリーグ自体のレベルも上がってると再確認できました。アンドレス、ルーカス(・ポドルスキ)、トーマス(・フェルマーレン)、(ダビド・)ビジャもいましたけど、あの時代にヴィッセルが集めてきた選手たちと一緒にプレーできたことは、もう財産でしかない。それぞれからユニフォームもいただきましたし、一生自慢して生きていこうと思います(笑)」

 イニエスタが日本で過ごした5年間はJリーガーやファン・サポーターたちの記憶に深く刻まれ、今後も語り継がれていくだろう。

[プロフィール]
田中順也(たなか・じゅんや)/1987年7月15日生まれ、東京都出身。柏―スポルティング(ポルトガル)―柏―神戸―岐阜。J1通算228試合51得点、J2通算24試合6得点、J3通算36試合5得点、日本代表通算4試合0得点。J1リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯の国内三大タイトル獲得、欧州挑戦と経験豊富なレフティー。自慢の左足から目が覚めるような強烈な一撃を放つ。

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