マンCがたどり着いた波乱万丈の3冠 忌み嫌っていたライバルと似た立場を経て悲願のCL制覇

CLを制したマンチェスター・シティ【写真:ロイター】
CLを制したマンチェスター・シティ【写真:ロイター】

【識者コラム】かつて2部と3部を行き来していたシティ、昔もあった「偽」システム

 かつてマンチェスターでシティは日陰のクラブだった。ユナイテッドがプレミアシップを獲り、欧州を席巻している頃、シティは「2部」と「3部」の間を行き来していた。それ以前にはユナイテッドと覇を競った時期もあり、さらにはるか以前にはユナイテッドに先んじてFAカップを獲っている。

 1904年のFAカップに優勝したシティは規定以上にボーナスを払いすぎたことで理事会役員全員が解任され、選手17人が1年間の出場停止処分となった。出資者を欠き、使えない選手を抱え込んで財政危機に陥り、優勝メンバーのバーゲンセールを行った。その時に買い上げた選手たちでユナイテッドは2度のリーグ優勝とFAカップを手に入れている。ユナイテッドの最初の栄光はシティとの合作と言っていい。

 1956年、シティは久々のFAカップ優勝を果たす。「レビー・プラン」のチームだ。センターフォワード(CF)ドン・レビーの「偽9番」作戦は、当時欧州を席巻していたハンガリー代表のコピーだが、ペップ・グアルディオラ監督の「偽サイドバック(SB)」や「偽センターバック(CB)」以前にもシティには「偽」システムがあったわけだ。ただ、この時のヒーローはレビーよりGKバート・トラウトマン。試合中に首を骨折しながらゴールを死守。その神がかりなプレーで大英帝国勲章を授与されたドイツ人である。

 トラウトマンはブレーメン生まれ、第二次世界大戦時にはドイツ軍のパラシュート部隊所属。前線に出る度に部隊が壊滅するが、捕虜になるや毎回脱走。最後に捕まった英国で農場労働を強いられていた時にプレーしている姿が評判となり、やがてシティの選手となった。

 PK阻止率は60%以上と言われていて、GKとして唯一バロンドールを受賞したレフ・ヤシンに「ワールドクラスのGKは私と彼だけ」と言わしめた。2023年のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝でMVP級の働きだったGKエデルソンは骨折していないが、外国籍のGKというところはトラウトマンとのわずかな共通点だ。

2007年に変貌を遂げたシティ、欧州きっての金満クラブに

 1968年、ユナイテッドが初の欧州王者に輝いたシーズン、シティはイングランドリーグ優勝を成し遂げている。69-70シーズンはカップウィナーズカップを制した。マンチェスターの2クラブが欧州をリードした時期である。しかし、その後どちらも低迷期を迎え、特にシティは3部まで落ちた。

 98-99シーズン、ジョー・ロイル監督の下でようやく2部への昇格を果たす。プレーオフでロスタイムの後半アディショナルタイム5分に起死回生のゴールを決めたポール・ディコフは語り継がれる英雄となった。2部時代のレジェンドは英領バミューダ諸島から来たストライカー、ショーン・ゴーター。181試合101ゴールという驚異的な得点ペースだった。同じ街の「赤」のクラブのスターであるデイビッド・ベッカムやライアン・ギグスほど有名ではないが、シティにはシティの英雄がいて、ひょっとしたら彼らより深く愛されていたかもしれない。

 シティが大きく変貌していったのが2007年、資金難に陥ったシティはオーナーを公募。手を上げたのはタイ元首相タクシン・タナワット。タクシンは本国で資産が凍結されて長続きはしなかったが、タクシンが売り渡した先のアブダビ投資グループはさらに強大で、シティは欧州きっての金満クラブとなった。いつの間にか、忌み嫌っていたユナイテッドと似た立場になっていた。そしてついに悲願のCL制覇まで実現した。

 シティのホームスタジアムでは熱狂的ファンであるオアシスの曲も流れるが、「ブルー・ムーン」も有名だ。スタジアムに似合わない、孤独で優しい歌の作曲者は、リバプールのアンセムになっている「ユール・ネバー・ウォーク・アローン」と同じリチャード・ロジャースである。波乱万丈、紆余曲折の末にたどり着いた3冠を、古参のサポーターたちはどんな思いで受け止めているのだろうか。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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