4部→1部へ成り上がり、ドイツ注目の遅咲きストライカー 共闘の元Jリーガーも驚き「自我の強さは凄かった」【現地発コラム】

ウニオン・ベルリンのケビン・ベーレンス【写真:Getty Images】
ウニオン・ベルリンのケビン・ベーレンス【写真:Getty Images】

今季躍進ウニオンを牽引、32歳ドイツ人FWケビン・ベーレンスは正真正銘の叩き上げ

 今季のドイツ1部ブンデスリーガも残すところあと2節となった(5月19日時点)。バイエルン・ミュンヘン、ボルシア・ドルトムントが激しい優勝争いを繰り広げ、出遅れていたライプツィヒも第32節のブレーメン戦に勝利して3位へ浮上。近年常に上位にいるこの3クラブに次ぐ4位につけているのがウニオン・ベルリンだ。

 2018-19シーズンにクラブ史上初めてブンデスリーガ昇格を果たし、4シーズン目のウニオン。降格の危機に陥ることがないどころか、さらに成長を遂げて昨季はリーグ5位でフィニッシュと躍進した。今季はUEFAヨーロッパリーグ(EL)に参戦し、グループリーグを突破し、決勝トーナメントにも進出している。

 今回はそんなウニオンで現在レギュラーFWとして起用されている32歳のドイツ人FWケビン・ベーレンスを取り上げたい。

 ブンデスリーガデビューは30歳の時。21-22シーズンに2部ザンドハウゼンから移籍してきたベーレンスは、開幕戦のレバークーゼン戦に後半36分から途中出場を果たしている。ちなみにこの時交代でベンチに下がったのは現シュツットガルトの元日本代表MF原口元気だった。

 この2シーズンでリーグ55試合に出場し、奪ったゴールは10点。今季途中までは終盤の切り札としての使われ方が多かったが、第14節アウグスブルク戦からはスタメンに定着した。前線から献身的に守備に汗をかき、フィジカルコンタクトをいとわずボールを収めていく。何よりゴール前への飛び込みが素晴らしい。

 ベーレンスが世代別代表に選ばれた経験は一度もなく、4部リーグ歴も長い。16-18シーズンに所属していたザールブリュッケン(4部)では79試合で36点をマーク。4部得点王にも輝いた。その後2部サウドハンゼンに移籍すると、ここでも3シーズンで98試合31得点13アシストと結果を残す。そして30歳の21年に1部ウニオン移籍を果たすという、正真正銘、叩き上げの選手なのだ。

元Jリーガーがベーレンスの凄さを証言「俺が試合を決めるという雰囲気があった」

 ウニオンの公式インタビューで「24歳くらいの時が一番気持ちを入れていた」と、自分のキャリアを振り返っていたことがある。24歳の時にいたのはアーヘン。かつてはブンデスリーガにもいた古豪クラブだが、極度の経営難でプロリーグからは姿を消すこととなり、ここ最近は4部リーグが定位置となっている。それでも若い選手がここで経験を積み、1~3部へとステップアップしていく例も少なくはない。

 そんなアーヘン時代をよく知る日本人選手がいる。水戸ホーリーホック、アスルクラロ沼津、ガイナーレ鳥取に所属していたGK福留健吾(現Yonago Genki SC)は、2010年から15年までドイツでプレーをしており、4部アーヘンでベーレンスとチームメイトだったのだ。

「いやなんかもう『ストライカー!』ってタイプの選手でしたね。野心はあったし、自我の強さというか、自己の強さは凄かった。それが衝突につながる時もあったりはしたんですけど、練習からしっかり求められるプレーは見せるし、試合でも点は取るんですよ」(福留)

 口数はそんなに多いわけではないが、「俺が試合を決めてやるという雰囲気がいつもあった」という。それでもチームメイトへの気遣いを感じさせるシーンも少なくなかった。福留とは比較的コミュニケーションを取っていたようで、当時のことを懐かしそうに振り返ってくれた。

「練習中に、僕がクロスボールに対して飛び出したときに、ケビンが思いっきり競り合ってきて、あいつの膝が僕のももに思いっきり入ってしまったことがあったんです。まったく立てなくて、次の日は練習ができなくて、ずっとトレーナーのところでケアを受けてたら、ケビンが来てくれたんです。『ごめん。昨日のシーンでは申し訳なかった』って。ドイツ人ってそんなに謝ったりもしないから、ケビンがそうやって足を運んでくれて、声をかけてくれたことは印象的でしたね。優しさはきちんとあった」

 だからといってそれからゴール前に飛び込むのを躊躇したりはしない。サッカーではいつでも貪欲かつ本気で、妥協なんてするわけもない。「ケビンがプレースタイルを変えたりなんてないです。ないです」と福留も笑う。

4部から這い上がれた理由は? 「そうしたプロ意識の高さがあったからこそ」

 24歳で自分がプレーしているリーグが4部だったら、そこからさらに上を目指すという志向にはなかなかなりにくい。特に現実的思考のドイツではその傾向がさらに強い。一般的には、サッカーを続けながらも自分の軸となる仕事を手にするために研修を受けたり、就職したりする。

「だからヨーロッパ全体的にそうだと思いますけど、遅咲きの選手って相当に稀だなって。そのなかで、ケビンがそれを実現したっていうのは、メンタルの強さだったり、普段からの意識の高さがあったからなんだろうなって思っています」

 福留は当時の様子を少し思い出しながら、別のエピソードも話してくれた。練習前には各選手が身体をほぐしたり、練習前に心身の準備をするわけだが、4部くらいの選手だと、それを本気でやる選手と気持ち半分でしかやらない選手がいたりする。そんななか、ベーレンスはいつでも丁寧な準備をしていたという。

「僕も早目に練習へと向かうんですけど、行くといつも必ずケビンがいる。選手としてのポテンシャルがあったのも間違いないですけどが、そうしたプロ意識の高さがあったからこそ、ああやって道をどんどん切り開き、ドイツ最高峰のリーグにまでたどり着いたんだと思います」

 ウニオンの昨季5位は、クラブ規模やその歴史を考えるとそれだけで大きな大きな快挙なのだが、もし終盤の失速を避けることができていたら、それこそ4位でフィニッシュし、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)へ出場する可能性もあったというのも事実だ。

 そして今季は現在4位につけるウニオン。5年前まで1部に昇格したことがなかったクラブがCL出場となったら、そしてその試合を決定づけるゴールをベーレンスが決めたりしたら、これ以上のおとぎ話はないではないか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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