元日本代表DF闘莉王氏が提言 さらなるJの発展へ3つの条件とは?「日本の文化には深みがある」

田中マルクス闘莉王氏がJリーグの未来について語った【写真:荒川祐史】
田中マルクス闘莉王氏がJリーグの未来について語った【写真:荒川祐史】

【インタビュー】闘莉王氏が思い描くJリーグの将来「サッカーは夢がある」

 Jリーグは5月15日に1993年の開幕から30周年を迎える。「FOOTBALL ZONE」では、名古屋グランパスや浦和レッズなどでタイトル獲得に貢献してきた元日本代表DF田中マルクス闘莉王氏にJリーグの未来像について語ってもらった。まずはスタジアムに足を運ぶこと、選手の給料、さまざまな角度でのアプローチ法について提言している。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞)

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 Jリーグ通算529試合で104得点。この30年間で最も“闘将”の名にふさわしい闘莉王氏は、常にJリーグの将来を案じている。

 ブラジル出身ながら単身で日本に渡り、2001年にサンフレッチェ広島でプロデビュー。03年にJ2水戸ホーリーホックに移籍し、この年に日本国籍を取得した。04年から09年までは浦和レッズの主力として活躍。06年にはリーグ優勝に導き、10年に移籍した名古屋グランパスでも移籍1年目でリーグ制覇。17年からは京都でチームを牽引していた。

 DF+FWの「DFW」という攻撃型のDFとしてゴールネットも何度揺らし、DF登録ではJリーグ史上初の通算100ゴールを達成した。19年限りで現役を引退し、責任を持ってピッチに立つうえで、“闘将”として時には怒号を飛ばして周囲にハッパをかけてきた闘莉王氏は、引退後もJリーグの発展を強く願っている。

「過去を振り返らないと現在はない。現在を感じないと未来を作れない。そう考えると、Jリーグが始まった頃、あの雰囲気の中で戦える選手たち、サポートできるサポーターたちは今見ていてもすごくワクワクする。Jリーグが始まったころの盛り上がりを思い出さないといけない。お客さんをスタジアムに呼ぶ。必ずそういうアイデアをみんな持っていると思う。あの盛り上がり、Jはやっぱり面白いという時代をもう1度作ってほしい。サッカーは夢がある。夢があるから子供たちが来る。子供たちが来るなら親も来る。スタジアムを満員にする。そこから始めないとJリーグは盛り上がっていかない。あの盛り上がりをもう一度作ることが必要」

 スタジアムを満員にするにはどうしたらいいのか?現在は故郷のブラジル・サンパウロ州で現役時代から続けてきた牧場経営などさまざまなことに挑戦している闘莉王氏。趣味の釣りや乗馬など楽しむ闘将の考えを聞いた。

「まずは、サッカーの魅力をファン以外の人たちにも感じてもらうこと。今はスマートフォンがあって、パソコンで動画ばかり見ている子供たちが増えている。リモートライフで、自宅の外にあまり出ずに生活している人も多くなっている。でも、人生はそうではないと思う。自然の中で生きていく楽しさ、自分たちの世界が広がる楽しさ。スタジアムもそうだと思う。スタジアムに行って、人に会い、会話できる。自分たちの世界を広げていくためにも、新しい考えを持たないといけない。スタジアムに行くと楽しい、懐かしい人に出会えるかも。声を出せることによってストレス発散になる。家から出て行こう、バーチャルの世界から抜け出してもらう。スタジアムでライブで見るサッカーの興奮、人生の楽しさを味わってもらう機会を作ることが必要」

 現在Jリーグの各クラブは、さまざまなイベントやコラボなどを通じて集客に力を入れている。闘莉王氏は「ブラジルから改めて見ると日本の文化には深みがある。その地方独自の魅力があって、差別化できている。リーグ戦の開催日にその土地の名所、名産物など素晴らしさをスタジアムから発信し続けることがインバウンド需要を考えると鍵になると思う。日本人はイベント企画や盛り上げ方はすごく優れている」と、ブラジルに住む海外からの目線でこう提言。そして、大事なことも付け加えた。

「1+1=3になるようなことをやってほしい」

「あとは給料。子供たちに『サッカー選手になればこれだけのお金が稼げる』という魅力を伝えることができれば、プレーヤー人口の部分やサッカー人気も増える。WBCで盛り上がった野球との差を埋めるためにも、1+1=3になるようなことをやってほしい」

 選手たちにとって、サッカー選手は仕事。対価ももちろん必要で大事なこと。そのためにはJリーグがより大きな文化に成長していかなければいけない。さらに、闘莉王氏は今の風潮も指摘した。

「あんまり早くから若くていい選手を(海の)外に出さないでほしい。海外に行っても活躍していない選手はいっぱいいる。それは日本にとって非常に良くないこと。高いレベルの選手たちは、もう少し日本にいてもらう。そういう若手とベテランの混ざり合いはすごく魅力がある。(香川や長友のように)Jリーグに戻ってきてくれるのはすごくいいこと。もうちょっと早く戻ってきてほしいけどね(笑)。『あいつもうダメなんじゃ?』『いやいや、まだできるじゃん!』そういう会話があるとまた盛り上がると思う」

 タレント性のある選手がファンを呼ぶ。サポーターの声援に後押しされ、何度もゴールを重ねてきた闘莉王氏だからこそ言える、大切な未来への提言。当時の盛り上がりをもう1度――。次の10年、20年、30年後には日本のサッカー文化がさらに大きな成長を遂げていることを願いたい。

[プロフィール]
田中マルクス闘莉王(たなか・マルクス・トゥーリオ)/1981年4月24日、ブラジル・サンパウロ州生まれ。サンフレッチェ広島―水戸ホーリーホック―浦和レッズ―名古屋グランパス―京都サンガF.C.。Jリーグ通算529試合104得点。日本代表通算43試合8得点。浦和と名古屋でチーム初のリーグ優勝に貢献し2006年JリーグMVPを受賞。03年に日本国籍を取得し、04年アテネ五輪に出場。10年南アフリカW杯で日本代表の16強進出に貢献。19年シーズンで現役引退後、YouTubeチャンネル「闘莉王TV」が話題に。22年11月にオンラインコミュニティー「闘莉王TVプロジェクト」をローンチ。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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