J1神戸がリバプール化で大変貌 首位チームを支える“ロングパス力”…話題になったバルサ化とは真逆スタイル
【識者コラム】昨季とは見違える強さを見せる神戸、高質の縦に早い攻撃とハイプレス
第9節の横浜F・マリノス戦は2-3で敗れたものの、J1の首位はまだヴィッセル神戸で変わらない。わずか数センチのオフサイドでのノーゴール判定、ポストに当たった武藤嘉紀のヘディングシュートもあり、王者・横浜FM戦も互角の勝負だった。残留争いに巻き込まれた昨季とは見違えるような強さを見せている。
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アンドレス・イニエスタの加入とともに「バルセロナ化」が話題になった神戸だが、現在のプレースタイルはバルサとはいわば真逆のリバプールのようだ。縦への速い攻め込みと、それに続くハイプレス。強度を追求するチームが上位を占めているなかでも、神戸のクオリティーは高い。
縦に速い攻撃というものの、ただ敵陣に早く蹴り込めばいいというものではない。縦に速くは、サイドへ深くとほぼ同義だ。
センターバック(CB)やアンカーからサイド深くにロングパス。そこで崩せなければサポートに付いたサイドバック(SB)のボールを戻し、再びCB経由で逆へサイドチェンジ。いわゆるU字型のボールの動かし方が基本になる。
2019-20シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で優勝した時のバイエルン・ミュンヘンがこの「外回り」の組み立ての典型だった。センターサークルからペナルティーエリアまでの中央部分はほぼ使わない。そこはむしろプレッシングでボールを奪うための場所で、攻撃は外回りがメインだった。縦に速くといっても、中央にロングパスを打ち込んでもまず通らない。だからサイド深くの侵入を狙う。アンカーのチアゴ・アルカンタラの正確なロングパスが印象的だった。
神戸の強みは左側に揃う左利き、本多勇喜と初瀬亮のキックが可能にする効率的な攻撃
神戸の強みはディフェンスラインの左側に左利きを揃えていること。CB左に本多勇喜、左SBは両足利きの初瀬亮。この2人のロングキックが縦に速い攻撃、つまりサイドへ深い攻撃を可能にしている。
例えば、左SBから左ウイングへのロングパスは縦に速いけれども、このコースはあまり通らないし、通ってもウイングはすでにマークされているので突破するのが難しい。ウイングにスペースを与えるなら対角のロングパスが有効だ。守備側はボールサイドに寄っているので、受け手がウイングでもSBでも、対角のロングパスはより広いスペースを受け手に提供できる。
ただ、それにはロングパスの精度とスピードが必須。右から左へ蹴る選手はいても、左から右は少ない。単純に左利きが少ないからだ。右足に持ち替えれば蹴れるが、それでは貴重な時間をロスしてしまい受け手のスペースを減らすことになる。左利きのロングキッカーを2人揃えた神戸は、サイドへの深い展開をスムーズにできていて、縦に速い攻め込みを効率良く行えているのだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。