Jルヴァン杯「グループ突破動向」 横浜FM&名古屋が好発進…序盤戦で輝いた各組のMVPは?

左から荒木遼太郎、酒井宣福、マルコス・ジュニオール【写真:Getty Images】
左から荒木遼太郎、酒井宣福、マルコス・ジュニオール【写真:Getty Images】

【識者コラム】グループ3戦終了、ノックアウトステージ進出へ各組の動向に注目

 ルヴァンカップはJ1の18クラブ、昨年J2に降格した清水エスパルス、ジュビロ磐田を合わせた計20クラブで行われている。

 来シーズンからはJリーグに所属する全クラブが参加するフォーマットになるため、この形式では最後の大会となる。AFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)が秋春制に移行したことで、これまではノックアウトステージから参加していたACL出場クラブもグループステージから組み込まれているのも今年の特徴だ。

 グループステージは5組(A~E)に分かれて行われ、各組の1位、そして2位の成績上位3チームがノックアウトステージに進めるが、グループ前半戦の3試合を終えて、動向が見えてきている。

■グループA
1位:横浜F・マリノス/勝ち点9
2位:北海道コンサドーレ札幌/同4
3位:サガン鳥栖/同4
4位:ジュビロ磐田/同0

 ここまでJ1王者の横浜FMが3戦全勝。リーグ戦では3勝1分2敗の6位と決して順調な滑り出しではないが、昨シーズンから2チーム分を回してきたアドバンテージや所属選手のクオリティーが、過密日程の中での3連勝はもちろん、5得点1失点という結果に表れている。札幌と鳥栖は開幕戦でスコアレスドローに終わり、それぞれ横浜FMに敗れ、磐田に勝利する形で4にとどまっている。

 札幌と鳥栖に関して言うと、横浜FMとの勝ち点5差を残り3試合で逆転していくのは現実的に難しいが、2位の上位でノックアウトステージに進むためには4月19日に札幌ホームで行われる直接対決の結果が大きな鍵を握る。逆にここで引き分けに終わるようだと、両者ともに伸び悩み、他組の2位チームを成績で下回って敗退という結末にもなりかねない。リーグ戦との“ターンオーバー”でチャンスを得ている選手たちも、経験を積んできているので、白熱した大一番になりそうだ。

 最下位の磐田はJ2を戦いながら、リーグ戦で出番のない選手たちがチャンスを得ているという意味では同じだが、J1のチームと対戦できる貴重な機会ということで、横内昭展監督のリーグ戦での起用法にも影響を与えてきている。すでに3敗を喫しており突破は極めて難しくなってきたが、1戦1戦を無駄にしたくはない。

■前半戦MVP:マルコス・ジュニオール(横浜F・マリノス)

 ここまですべての試合にスタメン起用されており、札幌戦で先制点をマークするなど、攻撃の中心人物として3連勝に大きく貢献している。ルヴァン杯というと若手の登竜門としての位置付けもあるが、リーグ戦では日本代表MF西村拓真にトップ下のポジションを奪われている状況で、腐ることなくパフォーマンスを上げている姿勢は選手の鑑であり、今後のリーグ戦にもプラスに向くはずだ。

J2で未勝利の清水は本来のパワーを発揮できている感も

浦和の鈴木彩艶もハイパフォーマンスを披露【写真:Getty Images】
浦和の鈴木彩艶もハイパフォーマンスを披露【写真:Getty Images】

■グループB
1位:湘南ベルマーレ/勝ち点5
2位:清水エスパルス/同4
3位:浦和レッズ/同3
4位/川崎フロンターレ/同2

 ここまで最も激戦区となっている。1位湘南が勝ち点5、最下位川崎が勝ち点2とその差は3しかなく、1試合の勝敗で並ぶ。首位の湘南は開幕戦で浦和と0-0の引き分け、川崎ともスコアレスドローだったが、監督交代したばかりの清水を相手としたグループ3戦目で攻撃力が爆発し、3-0で勝利した。清水はJ2で未勝利だが、ルヴァン杯では“格上”とも言える川崎に3-2と打ち勝っており、むしろ強度の面で同等以上の相手に本来のパワーを発揮できている感もあった。その意味では昨年の天皇杯で優勝したヴァンフォーレ甲府に少し通じるかもしれない。

 秋葉体制の初陣となった湘南戦で惨敗を喫したが、川崎戦と浦和戦に増して日頃リーグ戦に絡んでいないメンバーを起用した影響もあるだろう。16歳の矢田龍之介や小竹知恩など個々には光るプレーもあり、J2での捲土重来に向けて、チームの活性化につなげてもらいたい。勝ち点4で十分に突破の可能性は残しているだけに、グループステージ後半戦の起用法が注目される。

 浦和はここまで3引き分け。文字どおり、負けていないが勝ててもいない。それでも大会全体で見てもルヴァン杯のメンバーはベースの強度が高い。GKとバックラインはターンオーバーだが、中盤から前は少なからずリーグ戦に絡んでいる選手がほとんど。その意味ではマチェイ・スコルジャ監督のマネジメントが良いサイクルを生んでいる。そうは言ってもルヴァン杯に限れば3試合でリンセンの1得点しかできていない現実がある。後半戦は勝ち点3を取っていかないと、ノックアウトステージには進めない。リーグの札幌戦と川崎戦の合間にある次の湘南戦は突破の鍵を握る。

■前半戦MVP:鈴木彩艶(浦和レッズ)

 グループ第2節はU-22代表の欧州遠征で不在だったが、湘南戦と川崎戦でクリーンシートを達成。身体能力を生かしたシュートセーブだけでなく、クロス対応や背後の処理などもハイクオリティー。リーグ戦で西川周作との競争はますます激しくなりそうだ。

■グループC
1位:名古屋グランパス/勝ち点9
2位:サンフレッチェ広島/同6
3位:ヴィッセル神戸/同3
4位:横浜FC/同0

 リーグ戦2位と好調の名古屋が3連勝、最下位の横浜FCが全敗という結果になっている。名古屋は神戸との開幕戦でリーグ戦とほぼ変わらないスタメンを送り出して2-0の勝利を飾った。ここまでリーグ戦ではすべて途中出場の酒井宣福が得点を量産しているが、明確なターンオーバーはせずに、リーグ戦とスタメンを混ぜる戦略が名古屋に関してはここまで良い結果につながっている。

 勝ち点6で2位の広島も残り3試合で逆転は可能だが、2位でもノックアウトステージに進める希望は十分にありそうだ。広島はリーグ戦で2分1敗という出だしだったが、横浜FCとのルヴァン杯開幕戦で公式戦の初勝利を挙げて、そこからリーグ戦の3連勝という流れに乗った。その試合のスタメンは完全なターンオーバーだったが、主力組に大きな刺激を与えると同時に、選手層の底上げにもつながったようだ。

 神戸はリーグ戦で首位を走るが、0-5で敗れたグループ第3節の広島戦を見ても、選手層という意味では名古屋、広島より若干落ちることが露呈された側面はあるかもしれない。特に大迫勇也、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳、齊藤未月など代えが効かない選手たちが多い。言い換えれば、そうした選手たちを休養させつつ、若手やリーグ戦で絡めていない選手にチャンスを与えるという、吉田孝之監督の前向きな“割り切り”は感じられる。

■前半戦MVP:酒井宣福(名古屋グランパス)

 ここまで1つのPKを含む4得点を叩き出しており、名古屋の裏エース的な存在に。前線で見せるフィジカル的な強さはもちろん、神戸戦では2得点ともこぼれ球を押し込む形で、元々ディフェンシブなポジションの選手とは思えないストライカーぶりを発揮している。

一昨年Jリーグ最優秀若手賞の気鋭のアタッカーが完全復活の狼煙

■グループD
1位:アルビレックス新潟/勝ち点6
2位:鹿島アントラーズ/同4
3位:アビスパ福岡/同4
4位:柏レイソル/同2

 開幕戦で福岡が新潟に勝利し、幸先の良いスタートを切ったが、その新潟がホームで鹿島と柏を破って逆転した。見方を変えると首位の新潟は裏返しのアウェーゲームを2試合残しているので予断を許さない。2位の鹿島はリーグ戦で失速して岩政大樹監督も批判の矢面に晒されているが、福岡を相手にホームできっちり1-0の勝利を挙げた。

 ルヴァン杯のグループステージとはいえ、カシマスタジアムで今シーズンの初勝利を奪えたのは大きい。特に一昨シーズンのJリーグ最優秀若手賞を獲得した荒木遼太郎の復活は、リーグ戦にも良い流れを引き寄せるトピックと言えるかもしれない。新潟はリーグ戦に普段あまり出ていない選手も高水準のパフォーマンスを出せることを証明しているが、ここからは明確なターンオーバーというよりも、ミックスで首位突破を狙って行くのではないか。

 いまだ勝利がない柏はリーグ戦とカップ戦の起用法うんぬんよりも、チーム全体として攻守が上手く噛み合っていない。ネルシーニョ監督に対する厳しい声も高まっているなかで、後半戦の巻き返しはなるか。自慢のアカデミー出身者を含む楽しみな若手選手は多く、彼らの躍動に命運が懸かっているかもしれない。

■前半戦MVP:荒木遼太郎(鹿島アントラーズ)

 リーグ戦になかなか絡めていないが、ルヴァン杯ではここまで3試合すべてスタメン起用されて、10番らしい輝きを放っている。グループ第3節の福岡戦で、鮮やかなドリブルから荒木らしい決勝ゴール。一昨シーズンのJリーグ最優秀若手賞を獲得した気鋭のアタッカーが完全復活の狼煙をあげた。

■グループE
1位:ガンバ大阪/勝ち点7
2位:セレッソ大阪/同4
3位:FC東京/同3
4位:京都サンガF.C./同3

 ダニエル・ポヤトス監督1年目のG大阪はリーグ戦こそなかなか結果が出ずに苦しんでいるが、ルヴァン杯では2勝1分と内容に結果が付いてきている。7得点はグループCで神戸に5-0の大勝を飾った広島の次に高い。ライバルも明確なターンオーバーをしてくるチームが多いなかで、チーム全体に戦術理解が進んでいることを裏付けているのではないか。特に3-0と完勝したグループ第3節のFC東京戦は、同じくボールを動かす基本スタイルの相手に、見事な戦いぶりだった。こうした流れがリーグ戦にも反映されると良いが、グループステージ突破に向けては視界良好だ。

 京都は開幕2連敗というスタートだったが、グループ第3節でC大阪に4-0の大勝。ホームのサポーターを味方に、若い選手たちが躍動した。C大阪は京都を相手に大きく躓いたが、大阪ダービーを含むホーム2試合を残しており、本拠地ヨドコウ桜スタジアムで勝負強さを発揮すれば逆転可能だ。4チームすべてにチャンスはあるが、団子のまま最終節まで行くと、2位が成績上位3チームの中に入れず敗退するリスクもあるグループだ。

 京都と同じく勝ち点3のFC東京も、若手の育成に定評のあるアルベル・プッチ・オルトネダ監督の下、フレッシュなメンバーが経験を積んできている。逆転でのノックアウトステージ進出もそうだが、リーグ戦の躍進に向けたアピールも期待されるところだ。

■前半戦MVP:福田湧矢(ガンバ大阪)

 ここまで2得点1アシスト。大きな怪我を乗り越えてた気鋭のサイドアタッカーが、ルヴァン杯でしっかりアピールしながら、リーグ戦にも徐々に絡んできている。4-3-3の左ウイングがメインでありながら、3-4-1-2を採用する場合は右ウイングバックとしても稼働できるなど、機動力を生かしてマルチタスクを担う。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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