始末に負えない三笘薫やJリーグのドリブル王 まるで「後出しジャンケン」で相手翻弄…分かりやすい「縦突破」の魅力

日本代表MF三笘薫【写真:徳原隆元】
日本代表MF三笘薫【写真:徳原隆元】

【識者コラム】金子拓郎や三笘薫と似た形のドリブル、最初に広めたのは金田喜稔

 J1リーグ第6節の北海道コンサドーレ札幌対川崎フロンターレは3-4。このカードでは恒例になっている打ち合いだった。

 札幌の先制点は7分、金子拓郎が右サイドをえぐってクロスボールを入れ、岡村大八がヘディングでゲットした。この時の金子のドリブル突破は右足を先に踏み出してから左足でボールを進める形。最近は三笘薫がこれと似た形のドリブルで有名だが、おそらく日本で最初にこれを広めたのはJリーグ誕生前のJSL(日本サッカーリーグ)の強豪だった日産自動車(横浜F・マリノスの前身)でプレーしていた金田喜稔だと思う。

 金田はどちらのサイドでもプレーするウイングで、それ以前はプレーメーカーだった。右サイドなら、右足をひょいと放り出すように前に出したあと、左足でボールを引きずるように縦へ運んで突破していく。独特のドリブルは「キンタ・ダンス」と呼ばれていた。

 広島県工で金田の後輩だった木村和司は日産で名コンビを組んだが、木村も金田のフェイントモーションをよく使っていた。さらに日産に入ってきた水沼貴史、柱谷幸一もこのドリブルを使っていて、当時の日産のアタッカーにとってはさながら必須科目の感があったものだ。

 最初の空踏みでDFの体重をいったんそちらに誘導しておいてから実際に縦へボールを動かしていく。すでにDFの体重の乗ったほうの足の近くにボールが通るので、DFは反応が遅れる。日産の選手以外ではあまりお目にかからないドリブルだったが、面白いように抜けていた。

減速しない計算された絶品ドリブル…速さを生かす技術も備えた厄介さ

 現在は三笘の影響なのか、それとも伝統の技なのか、かなり多くの選手がこの形のドリブルを使っている。三笘の縦への突破は別格だ。左足を先に前へ出す「軸足リード」の形から、右足で地面からの反発を使って一気に加速する。ゼロから一瞬でトップスピードに変化するのでDFはまず付いていけない。そこから一定の歩数でボール触る、減速しない計算されたドリブルが絶品だ。

 この三笘タイプの縦突破を得意とする選手はそもそも足が速い。金田、木村、水沼は普通に走っても速かったし、ここ数年はJリーグのドリブル王である金子も速い。ただ、彼らは単純に速いだけでなく速さを生かす技術を持っているので余計に速さが際立つわけだ。三笘や金子は縦へ行くだけでなく、同じ形からのカットインにも変えられる。DFの体重のかかり方を見てどちらにも行ける。後出しジャンケンのようなドリブルなので、DFにすればいっそう始末に負えないドリブラーだろう。

 1980年代には一度絶滅しかけたウイングだが現在は復活を遂げ、日本代表の攻撃の武器も伊東純也と三笘になっている。ウイングのプレーエリアは観客席にも近く、1対1の突破から得点へ直結していくプレーは分かりやすい魅力にあふれている。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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