3月シリーズで入れ替わりも発生 森保ジャパン「最新序列」、新たな“波”を予感させるのは?

今回の2試合の起用法、パフォーマンスを受けての最新序列【写真:徳原隆元】
今回の2試合の起用法、パフォーマンスを受けての最新序列【写真:徳原隆元】

【識者コラム】3月シリーズは少し収穫に乏しい2試合だったが…

 第2次森保ジャパンは、昨年のカタール・ワールドカップ(W杯)後初となる公式戦を3月シリーズで行い、ウルグアイ代表、コロンビア代表相手に1分1敗という結果だった。カタールW杯(怪我で辞退の中山雄太を含む)と3月シリーズに招集されたメンバーから、今回の2試合の起用法、パフォーマンスを受けて最新序列を出した。(文=河治良幸)

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 3月シリーズで明確に、森保一監督の評価を上げたと考えられる選手は「↑」を付けてみたが、個人のアピールという視点で言うと、少し収穫の乏しい2試合だったと言えるかもしれない。フレッシュなメンバーを多く招集したと言っても、カタールW杯のメンバーが軸になっており、一気に序列を覆すようなサプライズもなかった。

 それでも酒井宏樹、吉田麻也、長友佑都といった選手たちが外れた中での序列の変化が見えてきたことも確かだ。

<GK>
◎シュミット・ダニエル(シント=トロイデン)↑
△谷 晃生(ガンバ大阪)
△大迫敬介(サンフレッチェ広島)
△権田修一(清水エスパルス)
△川島永嗣(ストラスブール)
※◎=主軸候補、〇=準レギュラー候補、△=その他検討候補

 GKから見ていくと、2試合にフル出場したシュミット・ダニエルは“第2期森保ジャパン”の守護神になっていく筆頭格で、特に新たなビルドアップの仕組みを構築するうえで、足元で正確にボールを捌けるという特長はさらなるアドバンテージになりそうだ。今回は出番のなかった大迫敬介や谷晃生もポテンシャルとしては十分に守護神の座を狙えるが、未招集でもカバー範囲が広く、ビルドアップに積極的に関われるタイプのGKは逆転のチャンスがあるかもしれない。

DFは板倉と組むCBの“相棒”が今後の鍵

<DF>
◎板倉 滉(ボルシアMG)↑
◎冨安健洋(アーセナル)
○伊藤洋輝(シュツットガルト)
○中山雄太(ハダースフィールド・タウン)
○菅原由勢(AZアルクマール)↑
○酒井宏樹(浦和レッズ)
△瀬古歩夢(グラスホッパー)
△吉田麻也(シャルケ)
△バングーナガンデ佳史扶(FC東京)↑
△橋岡大樹(シント=トロイデン)
△山根視来(川崎フロンターレ)
△谷口彰悟(アル・ラーヤン)
△長友佑都(FC東京)
△半田 陸(ガンバ大阪)
△角田涼太朗(横浜F・マリノス)
△町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)
△藤井陽也(名古屋グランパス)
※◎=主軸候補、〇=準レギュラー候補、△=その他検討候補

 DFでは板倉滉が主軸としてチームを引っ張っていく存在になることを印象付けた。失点に絡むミスはあったが、全体を統率しながら対人戦でも力強さを見せて、ビルドアップの関わり方も効果的だった。本来であれば冨安健洋が双璧になるが、今回のシリーズだけでなく、怪我での辞退や離脱が続いている。また、アーセナルで引き続き右サイドバック(SB)がメインになりそうで、センターバック(CB)に確固たる板倉の”相棒”が出てくれば、冨安が右サイドで固定的に起用されていくプランもありうる。

 新たなビルドアップの仕組みを見ても、流れの中でSBがインサイドに位置することも多いので、従来以上に中央での守備局面が増える可能性もある。さらにバングーナガンデ佳史扶のようなライン側の上下動が得意な左SBを起用するなら、冨安を右側に配置してバランスを取るというのは有効だ。

 その基準で見ても菅原由勢は2試合続けてスタメンで起用されるなど、着実に評価を高めた。ただ、今回は招集外だった酒井宏樹を追いやるほどのパフォーマンスは出せておらず、酒井も浦和でACL(AFCチャンピオンズリーグ)ファイナルを終えた6月のシリーズの招集は十分にありうるということで「○」にした。左SBは伊藤洋輝と初招集のバングーナガンデが起用されたが、2試合を見ても、伊藤は特性を考えても、CBがメイン、左SBがオプションになって行く可能性が高そうだ。

 バングーナガンデはデビュー戦となったコロンビア戦で、ぎこちないながらも積極的な攻め上がりやディフェンスを見せて、三笘薫との相性という意味でも試合を重ねていけば、面白い縦ラインになる期待はある。ただ、やはり中山雄太という左の第一人者がいることを考えると、本当の勝負は彼が戻ってきてからだろう。

 最もバングーナガンデはパリ五輪世代ということもあり、東京五輪での久保建英や堂安律がそうであったように、五輪予選が迫ってきたところで、右SBの半田陸とともに、大岩剛監督が率いる=22日本代表の活動を優先する見込みがある。“A代表経由パリ行き”を掲げるなかで嬉しい悩みだが、逆にそういう選手が1人でも多く出てくることが、長い目ではプラスになるはずだ。

鎌田はボランチがメインポジションになる可能性も?

<MF>
◎三笘 薫(ブライトン)↑
◎鎌田大地(フランクフルト)
◎守田英正(スポルティング)
◎遠藤 航(シュツットガルト)
◎伊東純也(スタッド・ランス)
○堂安 律(フライブルク)
○久保建英(レアル・ソシエダ)
○西村拓真(横浜F・マリノス)↑
△田中 碧(デュッセルドルフ)
△中村敬斗(LASKリンツ)
△南野拓実(ASモナコ)
△相馬勇紀(カーザ・ピアAC)
※◎=主軸候補、〇=準レギュラー候補、△=その他検討候補

 中盤は2試合ともにスタメンだった守田英正と鎌田大地が主軸になっていきそうだ。守田は4-2-3-1のボランチが固定的なポジションになるが、鎌田も今後ボランチがメインになって行く可能性はある。久保建英のコンディションが良好な場合に、どういう優先順位で起用されるかは注目ポイントだ。鎌田が守田と組めばボールはよく回るが、中盤に遠藤航がいるほうが守備の安心感がある。例えばコロンビア戦の1失点目のように、板倉が前で競り合った時に、ボランチのどちらも最終ラインをカバーできていないような事態は起こりにくい。

 そう考えても遠藤航の存在は大きいが、森保監督がゲームキャプテンは任せても、チームキャプテンとして指名していないのは現在30歳の遠藤に対して、3年半にわって主力で居続けられるかというマネージメント面の理由もあるかもしれない。またビルドアップの仕組みを入れて行くにあたり、遠藤は相手陣内で縦向きに仕掛けていくパス&ランに特長がある。シュツットガルトでは4-3-3のインサイドハーフを担当しており、練習時間が限られる日本代表でも4-3-3の同ポジションで、さらに能力を発揮するかもしれない。

 カタールでもう1人の中盤の主力だった田中碧は現在の立場の難しさを印象付けるシリーズとなった。ボールを動かしながら攻撃していくのは得意分野で、守田や鎌田にも引けを取らないポテンシャルはあるが、高い守備強度なども問われるポジションだけに、所属チームでのステージを上げて行かないと、守田、鎌田、遠藤との序列だけでなく、いまだ招集外の選手に弾き出されるケースもあるかもしれない。

西村は3月シリーズで評価を高めて序列アップ

 2列目は右サイドで堂安律と伊東純也のハイレベルな競争が続いている。ただ、連係の構築が活躍の生命線になる堂安に比べて、伊東はシンプルに特長を発揮しており、それでいて縦の仕掛け一辺倒ではなく、バリエーションもアップデートしている。3年半後まで考えると、長い目で現在30歳の伊東に頼りすぎるのは危険だが、今のところスピードや活動量にかげりもないため「◎」とした。

 中央はボランチも兼任する鎌田、ウルグアイ戦で衝撃的な同点ゴールを決めて、コロンビア戦でスタメンを勝ち取った西村拓真、コンディションの問題でコロンビア戦の途中出場のみとなった久保建英と、それぞれ特長の違う3人が争う。久保に関してもレアル・ソシエダでは主力を掴んでおり、直近のエルチェ戦でも得点を決めている。「○」とはしたが、当面の活動で外す理由は見当たらない。西村も3月シリーズでは評価を高めた1人なので、このポジションに関しては、招集外から食い込んでくる難易度はかなり高そうだ。

 左サイドは三笘薫がエース格としての地位を築いており、スタメンでも十二分に存在感を発揮できることを改めて示した。そもそもカタールW杯ではコンディションが100%ではなかったところから大会に入ったこともあり、森保監督の中での序列というよりも、世間的な認識というところでのアップもたしかなものになった格好だ。三笘が今後も”森保ジャパン”中心になって行くことはほぼ間違いないが、初招集だった中村敬斗やカタールW杯組の相馬勇紀、さらに続いてくる若手の台頭には期待したいポジションだ。

1トップはレギュラー当確の選手は不在

<FW>
○上田綺世(セルクル・ブルージュ)↑
○浅野拓磨(ボーフム)
○前田大然(セルティック)
△町野修斗(湘南ベルマーレ)↑
※◎=主軸候補、〇=準レギュラー候補、△=その他検討候補

 FWはカタールW杯と同じ4人だった中で、2試合をトータルすると上田綺世がさらなる成長を印象付けた。ただし、引き続き得点という結果を残せなかったことと、2試合ともスタメンではなかったことから、まだまだ主力として揺るぎない評価を得たとは言いがたい。カタールW杯で歴史的なゴールを決めた浅野拓磨にしても、新しい取り組みの中で生かされ方が改めて課題になり、カタールで出番のなかった町野修斗も、コロンビア戦で先制点の起点になる活躍は見せたが、試合に出たからこそ感じた課題はあったようだ。

 合流前の怪我が回復し切らず、途中離脱した前田大然は1トップとしての働きもあるが、ビルドアップから相手を崩したり、カウンターがメインにならないような戦いにおいてはセルティックと同じく、サイドアタッカーとして起用するほうが能力を発揮できるかもしれない。自チームでは”オズの魔法使い”の異名を取った元オーストラリア代表のハリー・キューウェル氏から直々にドリブルの指導を受けており、もしかしたら三笘に次ぐ左サイドのアタッカーになって行くのは前田かもしれない。

 基本は1トップを争う構図だが、コロンビア戦の終盤に見せたダイヤモンド型(実際は2列目に3人が並んで、遠藤が1ボランチだったが)の4-4-2など、2トップがオプションに入ってくることで、招集外の選手も含めて序列が変わってくる可能性もある。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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