三笘薫、W杯の号泣→プレミアで躍動 日本代表でも「打開してなんぼ」…寡黙な男がこぼした熱き言葉【現地発コラム】

FAカップ準々決勝でゴールを決めた三笘薫【写真:Getty Images】
FAカップ準々決勝でゴールを決めた三笘薫【写真:Getty Images】

大勝劇のFA杯準々決勝、試合直後に気持ちは早くも代表へ

「勝つことが大事だったのでそこは大きいですけど、もう1回(気持ちを)切り替えてすぐにリカバリーしないといけない。あっち(日本)でもう1回練習を積んで、しっかりとコンディションを合わせたい」

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 3月19日にホームで行われたFAカップ(杯)準々決勝戦後の取材。後半45分にチーム5点目を決めて、聖地「ウェンブリー・スタジアム」での準決勝進出を果たした大勝劇直後だったというのに、三笘薫の心はすでに日本に飛んでいた。

 思えばクロアチア代表に負けて日本のカタール・ワールドカップ(W杯)が終わってからの4か月間、三笘はこの3月の代表戦に照準を合わせて、引き金を引き続けていたような気もする。

 人目もはばからず号泣するほど悔しい思いをした初めてのW杯。それから4か月後に初めて行われる日本代表でのウルグアイ代表、コロンビア代表との2連戦に懸ける意気込みを三笘はこう語る。その言葉は、代表への強い思いが滲み出たものだった。

「(W杯後)1発目にどれだけいい試合ができるかというのは、今後のサッカー人生にも関わってくる。僕自身は“打開してなんぼ”の選手だと思う。そこは出さないといけない」

 三笘がW杯を終えてイングランドに帰って来たのは昨年12月中旬。同月21日のリーグカップ4回戦(チャールトン戦)は後半頭からの途中出場だったものの、中4日で挑んだ26日のプレミアリーグ第17節サウサンプトン戦(3-1)から先日のFA杯準々決勝グリムズビー・タウン戦(5-0)まで、15試合連続で公式戦先発出場を記録している。

 イングランドでのデビューシーズンにもかかわらず、この間に公式戦ゴール数は9、アシストは5にまで伸びた。好調ブライトンの中心選手としてだけでなく、英国全体での注目度や知名度も格段に上がっている。

 そんな状況下で、気の早いメディアは三笘の去就について新たな情報を掴むべく狂奔し始めた。ビッグクラブへの移籍か、はたまたブライトンがビッグクラブ並みの年俸を提示して引き留めるのか――。そんな論争が英メディア上でも繰り広げられている。

カタールW杯のクロアチア戦で涙を流した三笘薫【写真:徳原隆元】
カタールW杯のクロアチア戦で涙を流した三笘薫【写真:徳原隆元】

「W杯でできていないところができないと強豪にはなっていけない」

 しかし、三笘はそんな雑音に耳を傾ける素振りを全く見せない。むしろ、「毎試合ゴールかアシストを記録して得点に絡んでいきたい」と自らに厳しいノルマを課して、周知のとおりそれを見事に有言実行している。

 欧州の中でも最も激しく、近年の莫大なテレビ放映権料収入で資金的にも飛び抜け、実力、人気ともに世界一のプロサッカーリーグと目されるプレミアリーグ。そのなかで三笘は完全に先発レギュラーの地位を確立し、1人で状況を変えられる危険極まりない選手として認知され始めている。そんな状況をもちろん本人も自覚しているようだ。

「スタメンに慣れて、(ブライトンで)自分がどこで力を出せばいいかっていうところが考えられるようになった。得点を期待されて、そこを積み重ねていくところも、プレッシャーを感じながらやれている」

 ただ、驚くのはここからだ。そんな重圧を力に変えようとしているのだから。

「日本に行かないと分からないですけど、観に来てくれる人は(増えて)いると思います。プレミアでやっていて『どれくらい(代表でもできるのか)』という見られ方もすると思う。だからそれ相応のプレーをしなくてはいけない。結果が求められている」

 プレミアで積み重ねた数字とその自信を持って、今度は日本代表選手としてウルグアイ、コロンビアを相手に結果を出したいと話す。南米の試合巧者2か国でも怯む様子は一切なく、W杯以外ではなかなか対戦することができない一流国との試合を通じて自分の現在地を見つめ直そうともしている。

「簡単な相手ではないですし、ビッグクラブでプレーしている選手もたくさんいる。そこを楽しみつつ、自分でどれほどできるかというのを楽しみたい」

 三笘はさらに、「ボールを握りながらゲームをコントロールする」という森保一監督の構想についても言及。「W杯でできていないところだと思うので、そこは純粋にやりたいと思う。それができないと強豪にはなっていけないと思う」と語りボールを保持するチームにモデルチェンジすることを歓迎すると、「自分も少しずつ参加して、良い形で関われれば」と続けて、新たなスタイルの代表チームでも完全なる主軸になることを誓った。

プレミアで先発の座を確立、代表活動も両立する初めての日本人プレミア選手

 現地でこうした三笘の発言を聞いていると、ようやく日本人の中からプレミアと代表活動を両立できる選手が現れたのだと感慨深い気持ちになる。

 これまでの日本人プレミア選手は、フィジカルと個人技の両面が求められるサッカー発祥国特有のフットボールと日本代表の組織的なサッカーの狭間で苦しむばかりだった。もちろん、遠い極東で戦うことが多かったために移動という地理的な問題も両立が難しい理由として考えられただろう。

 香川真司、岡崎慎司、吉田麻也……クラブで存在感を示し始めたかと思えば、日本代表に招集された直後はお決まりのようにベンチ外となり、振り出しに戻ることを繰り返した。プレミアで代えの効かない完全な先発レギュラーの座を掴んだ日本人選手に誰もなれなかった。

 ところが、三笘は違う。昨年末から25歳の日本代表MFは、ブライトンで完全なファーストチョイスとなった。それはチームを率いるロベルト・デ・ゼルビ監督の「三笘はその1対1で見せる能力で今やチームに不可欠な選手となった」「(モイセス・カイセドと)同じやり方で来季もブライトンに留める必要がある」という言葉からも明らかだ。

 プレミアのデビューシーズンで押しも押されもせぬ存在となった三笘の話を聞いてさらに思うのは、その“貪欲さ”である。どれだけ結果を残し注目度が上がろうとも、試合後の談話では上手くいったことは簡潔にそっけなく語り、できなかった部分に時間を割いて言及する。これは明らかに、もっともっと上を目指すという高い意識の表れだろう。

 ブライトンで毎試合ゴールに絡むプレーを積み重ねる――。そのために得意の突破力に加え、ラストパスの精度も上げてアシストを増やした。さらに左サイドから中央にポジションを移しビルドアップでも効果的なプレーをする。守備や連係面での規律も疎かにしない。

 こうしたプレミアでの鍛錬を代表にも還元し、アジアカップや次回のW杯でも輝く。三笘が目指すのはそうした真のスーパースターへの道のりなのだ。

 プレミアの日本人選手として初めて押しも押されもせぬファーストチョイスとなり、強豪相手でも確かな存在感を示してきた三笘。そんな彼なら、欧州最強リーグで輝き続けた先に日本を背負って2026年W杯で躍動する世界有数のアタッカーに成長している姿も決して夢ではない。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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