【W杯】ジャイアントキリングかくあるべき 日本代表とビジャレアルに共通した“経験”と“落ち着き”

日本代表はグループ首位で決勝トーナメント進出【写真:ロイター】
日本代表はグループ首位で決勝トーナメント進出【写真:ロイター】

【ドイツ発コラム】CLベスト4を成し遂げたビジャレアルの戦いぶり

 日本代表がドイツ代表、そしてスペイン代表に勝利して決勝トーナメント進出を果たした時、昨季バイエルン・ミュンヘンを下してUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝に進出したビジャレアルの戦いぶりを思い出した。ジャイアントキリングとはかくあるべきというのを示してくれた試合だったからだ。

 ファーストレグを1-0で勝利したビジャレアルは、バイエルンホームのセカンドレグで引き分け以上なら勝ち上がりを確定できる。とはいえ相手は優勝候補にも数えられる強豪クラブ。ホーム大声援のサポートを受けて、ビジャレアルを追い込んでいく。

 後半7分に世界屈指のFWロベルト・レバンドフスキにゴールを決められると流れはさらに一方的に。連続プレスに来る相手に対して、ビジャレアルはパスをつなげる局面を全く作れず、守備ラインからボールを蹴りだすことしかできなくなってしまう。そのボールも跳ね返されてはセカンドボールを拾われるし、かといって無理をして前に出ようとすると逆にスペースを空けてしまう。自陣から動けず八方塞がりになってしまっていた。

 一息つける局面がないと気持ちの面でどんどん苦しくなるのは、スポーツの世界ならよく知られた話だ。追い込まれ続けたら、どこかで最後に崩れてしまうというのが定説だ。そんななかビジャレアルのウナイ・エメリ監督(現アストン・ビラ)は盛んに選手へ「落ち着け」と大きなジェスチャーを送り続けていた。そのとおりだ。でもどうやって落ち着く? どうやったら落ち着ける? ボールを持てる時間も全くないのに。手だてがないなら落ち着くこともできない。押し込まれて連続失点もあり得ると思っていた。

 でも違った。「落ち着け」と言われて、ビジャレアルの選手は「落ち着けた」のだ。そこにはチーム全体に共通の確信があることが重要だった。苦しくても辛抱強く守り続けよう。必ずどこかで、自分たちの時間帯がくると。だからだろう。時間の経過とともに、ビジャレアルの選手から焦りは消えていった。

 そして実際に、終盤には少しずつ相手陣内でボールを持てる状況が増え、そして後半42分、相手の隙を見逃さずに鋭いカウンターから途中出場のサムエル・チェクウェゼが値千金のゴールを奪ったのだ。

 試合後の記者会見、勝因についてエメリ監督は次のように語っていたのが印象的だった。

「CLという大舞台で何より大事になってくるのは、“強豪を倒す”という経験だ。自分たちはユベントスに勝利することでその最初の大事な経験をした。自信を深め、キャパシティーが増えた。だから、自分たちのチャンスを生かすやり方を探し続けることができる」

 これこそ日本代表が勝ち得た大事な事実ではないだろうか。例え前半圧倒されまくっていたとしても、1失点では済まずに複数失点しそうなピンチがあったとしても、苦しい時間帯をしのぎ、後半吹っ切れたフルパワーサッカーでドイツから連続ゴールを奪い取ったという事実が、今後日本サッカーの歴史において極めて重要な“経験”として残っていくことだろう。それがあったからこそ、スペイン戦でも“落ち着き”をなくすことなく、自分たちで仕掛けながら、“自分たちのチャンスを生かすやり方を探しながら”、自分たちの時間帯がくることを待ち続けることができた。

 ビジャレアルのベテランセンターバック(CB)ラウール・アルビオルが次のようにも語っていた。そしてこれこそが僕らが受け取るべきメッセージだ。

「自分たちには世界的なスター選手はいないかもしれない。だから他の武器で戦わないと。それぞれが必死に戦って、みんなで力を合わせて、支え合っていく。これからもやることは一緒だ。全力で戦う。もっとよくなるように取り組む。夢は続いていくんだ」

 さあ、日本代表の“夢”はどこまで続いていくだろうか。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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