【W杯】堂安の強烈ミドルが生まれた理由 スペイン撃破につながった森保ジャパンの”鬼プレス”を読み解く
【識者コラム】後半からギアを上げハイプレスから得点
日本代表はスペイン代表に2-1で勝利し、E組の首位でノックアウトステージ進出を決めた。決め手となったのは“鬼プレス”とも呼べる後半立ち上がりのハイプレスだ。伊東純也は「後半は最初プレッシャーをかけようというところで、最初プレッシャーをかけて、相手がちょっとびっくりしてたかなと思います」と語る。
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前半は基本的に5-4-1で構えてミドルブロックを引いていたが、4-3-3のスペインにボールを回される中でラインも低くなり、そのなかでペドリやガビ、ウイングのダニ・オルモ、ニコ・ウィリアムズなどに間を掻い潜られるシーンが何度もあった。そこも時間が経つなかで修正して、ボールを回される中でもやりたい放題はやられなくなっていたが、後半頭からあの“鬼プレス”をされたら前半とのギャップも相まって、簡単に回避することはできないだろう。
具体的に説明すると、スペインのボールになった瞬間に前田大然が左センターバックのパウ・トーレスにファーストプレッシャーをかける。トーレスはGKウナイ・シモンにバックパス。それに対して前田は一瞬のタイムロスもなく、GKの方に連続して詰め寄る。ウナイ・シモンはなんとか外して、右外に開くセンターバックのロドリに渡した。
ここに後半開始から入った鎌田大地が斜め内側からダッシュして、パスコースを右前のカルバハルに限定。それに応じて、三笘薫が快足を飛ばして、鎌田と2人でカルバハルを挟み込んだ。余裕が無くなったカルバハルは結局ロドリにボールを戻すしかない。そこに今度は三笘がトップギアのままロドリにプレッシャーをかける。
ロドリはくるっとターンしながら三笘にボール奪取を許さず、そのままウナイ・シモンに戻す。この時点でウナイ・シモンに誰もプレッシャーがかかっていなかった。しかし、ロドリからボールが出たところで前田が驚異的なスピードで迫ったため、ウナイ・シモンは左のバルデに向けて、ロビングパス(浮き球のパス)を出した。
実はウナイ・シモンがロドリからパスを受ける時に、右シャドーの堂安律がパウ・トーレスにアプローチしており、それがウナイ・シモンの視界に入っていたのかもしれない。堂安の頭上を越えるロビングパスはバルデに綺麗な形で通る。しかし、ワントラップしようとしたところに伊東が襲いかかり、ヘディングで前方の堂安につなぐ。堂安はボールを受けると、近くにいたペドリをインにかわして左足の強烈なシュートを突き刺した。
「あれはもう取れると思ったので。相手のサイドバックがこっち見てなかったですし、絶対トラップした瞬間に行けるなと思ったので。ギア上げて取りに行きました」
そう振り返る伊東によると、三笘と2人で左右のサイドバックにプレッシャーをかけるというプランは共有していたようで、後半の最初の守備でそれを発揮したというのは見事だった。それだけ積極的に前の選手が行くというのは後ろに対する信頼が無いとできない。
「後半はあそこで(堂安)律がプレッシャーをかけた時に自分も連動して行くしかないと。後ろは(板倉)滉に任せて、連動してもらうという形でやってました」
そうした信頼関係がベースにあるからこその積極的なプレーであり、ファーストプレスとGKに詰める守備で勢いを出した前田、連動した鎌田や三笘、狙い通りボールを奪った伊東、そしてゴールという最高の形で良い守備からのショートカウンターを完結した堂安。そうしたビジョンと実行力が凝縮したゴールだった。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。