【W杯】ドイツ代表を立て直した“建設的な批判” 守護神ノイアー「僕らはまだ生きている」
【ドイツ発コラム】スペイン戦はハイレベルな内容で1-1のドロー
ドイツ代表が土壇場で踏みとどまった。カタール・ワールドカップ(W杯)第2戦でスペイン代表と対戦し、先制を許す難しい展開ながら、途中出場のニクラス・フュルクルクが値千金の同点ゴールを挙げて、今大会初の勝ち点を挙げることができた。
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日本代表がコスタリカ代表に敗れたことで、スペインに敗れても実質決勝トーナメント進出の可能性を最終節まで残すことはできる。ただ、2敗で迎える3戦目と強豪相手に同点に追いついての3戦目は違う。
結果もそうだが、内容的にもハイレベルな試合を提供できたことで得た手応えは間違いなく大きい。試合後のテレビインタビューに臨むハンジ・フリック監督の表情も生き生きとしている。言葉を必死に手繰り寄せていた日本戦後とは大きな違いだ。
「非常に興味深い試合だった。サッカーファンならみんな喜んだ試合ではないだろうか。チームのパフォーマンスを素直に褒める。今日我々は最初の一歩を踏み出すことができた。そして次の一歩をコスタリカ戦で踏む。日本対スペインの結果にも左右されるが、勝ち抜けを決めたい」
日本戦後には批判的なコメントも口にしていたキャプテンのマヌエル・ノイアーもこの日は饒舌だ。
「スペイン相手に難しい試合になるのは分かっていた。でもファイトすることを受け入れて、守備バランスを丁寧にとりながら、90分間強豪相手に素晴らしいプレーをした。交代で入った選手がベストプレーをしてくれたのが素晴らしかった。大事なのは、『僕らはまだ生きている』というのを見せることができたことだ」
日本戦後のテレビインタビューではイルカイ・ギュンドアンが「何人かの選手がボールをもらうのを怖がっているように思えた」や「W杯であんな簡単に失点するシーンを見たことがない」など相当刺激的な批判を口にし、大衆紙「ビルト」を中心に「ベテラン組と若手組の溝が深まっている」「監督が選手の機嫌を気にして交代策を決めている」など、あることないこと書きまくっていた。『ドイツは内紛で自滅するのか』のような空気が生まれつつあった。
そんななか、記者会見に応じたカイ・ハフェルツはそうした噂を一蹴する。
「イルカイ(・ギュンドアン)とマヌ(ノイアー)の建設的な批判だった。それで腹を立てている選手は一人もいない。みんなミスをしたことを知っているからね。もちろん26人も選手がいたら、それぞれ違う意見がある。だからこうやって批判的な視点で考察し合えることも大事だ。それがチームをさらに前へと進めてくれる。僕らはここ数日いろいろ話し合った。もう前を向いているし、トレーニングではいい感覚がある」
批判的な意見や指摘を通じて、互いの考えや見解を確認し合う。なぜそうしたことが起こったのか。それを解消するためにはどうしたらいいのか。自分が思っていることを周りの選手はどのように受け止めているのか。
活動日数が少ない代表では、チーム作りは簡単ではない。どれだけ優れた資質を持った選手が集まっても、目的・目標が共有できず、自分の思いばかりが前に出てきてしまっていたらチームとしての力を発揮することはできない。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。