元主審・家本氏が考察するW杯ジャッジの変化 半自動オフサイド技術導入の利点とは?
【専門家の目|家本政明】2014年以降のW杯でのテクノロジー導入に見解
11月20日に開幕するカタール・ワールドカップ(W杯)では、「半自動オフサイド技術」が適用される予定だ。2014年のブラジル大会から得点が入ったか否かを判別する「ゴールラインテクノロジー」、18年のロシア大会からは「ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)」といった審判をサポートするテクノロジーが次々と導入されてきたなか、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が、W杯におけるジャッジの変化を考察した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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――11月に開幕を迎えるカタールW杯では、「半自動オフサイド技術」が導入されます。今回のW杯のジャッジのトレンドについて、家本さんの所感をお聞かせください。
家本政明氏(以下、家本氏)「テクノロジーがフットボールに入ってきてW杯は3大会目になります。ゴールラインテクノロジー、VARが入ってきて、今回はセミオートのオフサイドが導入されました。VARは人がその映像を見て判断していく。見逃した重大な事象や明らかな間違いなどに介入します。このあたりは、各国でこれまでやってきたとおりだと思います。Jリーグでは導入されていませんが、ゴールラインテクノロジーはボールがゴールに入ったかどうかを完全に判別可能です。結果が瞬時に出るので、すぐに選手や観客に結果が伝わり喜べるのは利点ですね。
今回導入されるセミオートのオフサイド判定も、ゴールラインテクノロジーのように瞬時に判別できる要素があると思います。これまで『オフサイドディレイ(際どいシーンでは旗を上げず一度プレーさせる)』で対応して、判定に時間がかかっていましたが、テクノロジーの進化によってオフサイドか否かが、厳密性を持って短い時間で判定が導き出されるようになるはずです。選手も、観客も、レフェリーにとってもストレスの度合いが小さくなり、得点が入った時の瞬間的な歓喜の渦のようなものが、元に戻っていくかもしれないですね」
――では、そのような半自動オフサイド技術によって、逆に悪影響は出るのでしょうか?
家本氏「テクノロジーでは正確なデータで判別するので、オフサイドの判定がミリ単位で出てきます。ゴールラインテクノロジーと同等の精度で判定されるはずなので、これまで観客や選手がオフサイドだと思っていたようなものが、機械を通すと結果が異なっていたりするケースが出てくる可能性がある。判定は正しいにもかかわらず、そのギャップを感じる人たちはいるでしょうね。そのあたりで“慣れ”が必要かもしれません」
――VARの導入で、近年副審がオフサイドディレイをする場面が増えています。今回から半自動オフサイド技術が採用されるにあたって、副審の役割に変化はあるのでしょうか?
家本氏「VARが入って来た時点で、副審の役割は変わりました。タイトな判定に関しては、得点の機会を奪わないためにディレイを行います。導入以前は、副審自身がタイトな判定も決断しなければならなかったんですが、VARが入ってきてそこが問われなくなりました。半自動オフサイド技術が導入されても副審がディレイすることに変わりはないのですが、現在よりもだいぶ早くオフサイド判定の真偽が分かると聞いているので、ジャッジの審議により試合が止まる時間が少なくなると想定しています」
――そのようなテクノロジーによって得た“時間短縮”は、今回の大会でどのような変化をもたらすのでしょうか?
家本氏「“時間短縮”はものすごくポジティブな変化だと思います。フットボールの魅力の1つに、試合が途切れない“連続性”という観点があると私は思っています。常にボール、人が動いての連続がサッカーで、いつ何が起こるか分からないワクワク感がある。テクノロジーによって試合中に止まる時間が減り、連続性の特性が担保されるのは、サッカーを愛するすべての人にとって、非常に喜ばしいことだと個人的に思っています」
(FOOTBALL ZONE編集部)
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。