元Jリーガーから農家へ転身、次の仕事場は畑と田んぼ 異業種の若手5人で事業立ち上げ「こんなに働いたのは人生で初めて」

「UTSUNOMIYA BASE」のメンバー。とうもろこしを背に右からリーダーの吉澤康晴、服部竜大、西澤代志也、渡邉裕規、清水玲音【写真:本人提供】
「UTSUNOMIYA BASE」のメンバー。とうもろこしを背に右からリーダーの吉澤康晴、服部竜大、西澤代志也、渡邉裕規、清水玲音【写真:本人提供】

農業のイロハから勉強で右往左往の日々 研究と調査を重ねて着実に成果

 セカンドキャリアについてなんの展望もなかった西澤は、昨年末に2人の構想を聞いて今年1月に決断。農業には無関心だったが、「何をするかではなく誰とやるかが肝心で、信頼できる仲間となら職種にこだわりはなかった」と言う。着想を巡らすと3人では人手不足と判断し、PR業務を展開する服部竜大、主にネット通販を担当する生粋の宇都宮っ子、清水玲音を加えた5人体制にした。

 引退したばかりのサッカー選手に農業のイロハが分かるはずもなく、専門家の吉澤に指示されるまま右往左往する日が続くと、負けず嫌いの気性に火が付いた。研究と調査を重ね、知識を身に付けていったのだ。

 渡邉はそんな西澤について「仕事を見つけては農業を好きになろうと勉強し、努力もする。長くプロ選手だったこともあると思うが、決めたら責任を持ってやり続ける職人肌の男ですね」と評した。

 5月19日、クラウドファンディングで活動資金を募ると、1か月で目標の30万円を大幅に上回る671万7000円が集まった。西澤らは期待の大きさを感じて支援者に感謝し、農業への意欲をかき立てる。

 最初の事業は生で食べても甘くておいしいとうもろこしの栽培だ。直売所は1か所だが、例年約4週間で5万本を売り上げる人気商品。西澤は「初めて口にした時、あまりのおいしさに感動した」と自賛する。

 吉澤の父が工夫を施し、35年にわたって育ててきた手法を継承。畑より保水性や地力があり、みずみずしさを助長してくれる田んぼで栽培し、肥料は鶏、牛、豚などの糞を試した結果、鶏糞が最も適していた。

 3月初旬に播種し、6月末から収穫したが、今夏は出荷予定の約7万本のうち、2万本あまりが育たなかった。宇都宮市は6月25日から、観測史上最長となる8日間連続の猛暑日を記録。雨も降らず、実がしぼんでしまう高温障害が発生したのだ。さらに豪雨と突風、雷にも見舞われ、多くの茎がなぎ倒されてしまい、販売できたのは約4万本だった。

 6月は経験したことのない多忙を極め、午前4時にとうもろこしを摘むと直売所へ運んで販売。この後、クラウドファンディングの返礼品の箱詰め作業などに午後7時まで追われる日々が、およそ1か月続いた。

 西澤は「こんなに働いたのは人生で初めて」と笑うと、「モチベーションは『おいしい』って言ってもらえることに尽きる。この言葉を聞くだけで嬉しくなりますね。あと、農業の大変さを肌で感じたことで、みんなに農家さんの苦労を知ってもらい、食べ物を大切にしてほしい」と畑に目をやった。そこでニンジン、ピーマン、ナス、トマト、大根、カボチャ、ネギ、スイカなど20品種以上を無農薬で栽培している。

 休日の過ごし方を尋ねると「心配になって、畑を見に行っちゃうんですよね」と頭をかいた。

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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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