W杯メンバー落選の原口元気が明かしていた強い決意と届かなかった思い 「ブンデス首位チームでもう1回ポジションを奪えば…」

ウニオン・ベルリンは12戦を終えて、リーグ首位【写真:ロイター】
ウニオン・ベルリンは12戦を終えて、リーグ首位【写真:ロイター】

「やっぱただ走って戦ってるだけじゃ駄目」 原口が持つユーティリティーさとは?

 しばらくスタメンで使ってもらえないと選手として焦ったり、悩んだりもするだろう。だがそうした時間に自分を見つめ直し、やるべきことを整理する力が原口にはある。

「使われない期間のほうがいろいろ考える。一から全部コンディションのことだったり、トレーニングもそうだし、短い時間でどれだけ評価出せるかっていう試合も多かったので、途中交代の入り方はどうしようとか考えたりとか。いろんな工夫をしながら、シュツットガルト戦でやっとチャンスがきて、そこである程度出せたというのは自分の強さだと思います」(原口)

 第12節ボルシアMG戦(2-1)でも、1点を追う展開で後半14分から途中出場した原口は、攻守にキレのある動きでチームに勢いをもたらした。ドイツのサッカー専門誌「キッカー」は「原口元気、スベン・ミシェル、クリストファー・トリンメルの3人がベルリンのオフェンシブサッカーを活性化させた」と称賛したほどだ。

 ロングボールへのサポートもそうだし、守備を固める相手に対して、中盤で一度ボールを受けてサイドを変え、リズムに変化をつけ、攻撃に厚みをもたらしていた。バランスを取るためにサポートやスペースカバーに気を配るだけではなく、機を見て勇敢にバイタルエリアでボールを受けて、あと少しでゴールチャンスというシーンを何度も作り出した。

 後半34分の同点ゴールは、原口を経由して左サイドに展開されたボールをCBディオゴ・レイテがゴール前にクロスを送り、これをケビン・ベーレンスがヘディングで合わせたものだ。縦一辺倒になっていた流れのなかで、ゲームを一度作ったところから生まれたゴールだった。

「やっぱただ走って戦ってるだけじゃ駄目」

 そう口にしていたことがある原口。それは誰もがやらなければならない最初のベース。そこにどのような色を付けるのか。いつ、どこで、どのようにアクセントを加えるのか。

「原口はユーティリティーさがあるけど、スペシャリティのところが」みたいな論調があるが、原口の持つユーティリティーさとは、どのポジションでもそつなくプレーできるというものではない。さまざまなクラブ、さまざまな状況、さまざまなポジション、さまざまな立ち位置でプレーをしてきたことで、「今、何をすべきか」という確かな判断基準を高いレベルで備えている。スタメンからでも、途中出場からでも、たとえ終了間際のアディショナルタイムに監督から名前を呼ばれても、今自分がすべきことすべてにフォーカスできる選手だ。

 バイエルン・ミュンヘンと1-1、ボルシア・ドルトムントに2-0という戦績を残しているウニオンでプレーしているのも大きい。攻守に戦術がとても丁寧に整理されているし、選手にはそれぞれの状況を適切に判断し、瞬時にそして勇敢にプレーすることが求められる。チームの中で、それぞれの選手がどのように力を発揮すべきかがとても明確だ。そんなウニオンでのレギュラー争いが原口をさらに成長させている。

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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