日本にとって最大の脅威に? ドイツ代表、記録尽くしの19歳ヤングスターの驚くべき成長スピード
【ドイツ発コラム】バイエルンのムシアラはすでにトップチームで大活躍
さあ、ワールドカップ(W杯)まであと5か月だ。
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大会直前に準備期間がないという異例の開催スケジュールになるカタールW杯では、これまで以上に今季リーグ戦でのコンディション、パフォーマンスがそのまま大会におけるベースとなるだろう。
特に夏スタートの欧州リーグでプレーする選手にとっては所属クラブで出場機会をえられなくなったら、まさに大打撃だ。そして本大会において貴重な役割を果たす選手は所属クラブでも主軸、中心選手として出場し続けながら、リーグをおざなりにすることなく、調子をW杯に向けて調整しながらアップさせていくという難題が待ち構えている。
そんななか、ドイツ代表において秘密兵器以上の存在になりうる可能性を秘めているのが19歳ジャマル・ムシアラだ。19歳ながら「新鋭」という言葉がまるで似合わないほど、すでに強豪バイエルン・ミュンヘンでトップチームでの経験が豊富。数々の記録を持っている。
トップデビューは17歳と115日で迎えた20年6月20日のフライブルク戦。後半43分にトーマス・ミュラーと交代出場し、バイエルン歴代最年少出場記録を更新した。これまでの記録保持者はピエール・エミール・ホイビュルクの17歳251日。
さらに20年9月18日のシャルケ戦では途中交代からブンデスリーガ初ゴールをマーク。17歳205日で決めたこれはブンデスリーガ歴代最年少ゴール記録となっている。加えて21年2月24日CL決勝トーナメント1回戦のラツィオ戦でスタメン出場を飾ると24分にチーム2点目を華麗にマーク。こちらはバイエルンのCL歴代最年少ゴール記録となっている。
当時バイエルン監督だったハンジ・フリック氏は「相手守備ライン間とハーフスペースに生まれるスペースで数的有利な状況を生み、起点を作り出したかったが、彼はいい仕事をしてくれた。非常に確実にボールを操ることができ、ライン間で優れた動きを見せることができる。どのスペースにいればいいかをかぎ分ける嗅覚を持っている」と当時から絶賛していたのが印象的だ。
フリック監督が言うように、ムシアラはボールを引き出す動き、そしてボールを受けたあとのアクションどちらも素晴らしい。「パスを受けるときにはできるだけフリーになって、できれば相手に悟られないように味方選手がパスを出せるタイミングで要求する」というのは、多くの選手が知っていることだろう。でもいつ、どこで、どのように、どんなタイミングで要求すればいいのかというのは簡単なことではない。どれだけ技術に優れた選手でもパスをなかなか受けることができずに苦労するというのはサッカー界でよくある話だが、ムシアラにはそのための感覚が備わっている。
ボールを持った時の引き出しが豊富なのもいい。相手選手が近くにいても小刻みなステップと細かいボールタッチでゴール方向へと持ち出すことができる。「狭いスペースでもボールを扱うのが巧み」なんて表現される選手はほかにもいろいろといるが、相手との距離感が極めて近いエリアでボールを受けても、相手がボールを奪いに仕掛けられないという怖さがある。足を1歩出せばとれる距離だし、他に逃げられるスペースはないはずなのに、ボールをタイミングよく動かして相手をずらして、次の動きで相手と入れ替わるようにボールと体を運んでしまう。それも一歩目からスピードに乗った動きで、だ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。