アトレティコの「5-5-0」は未来のサッカーの予兆? “攻撃力ほぼゼロ”の代償の先にあるモノ

攻撃ができない弱点ありも、キープできれば相手も下がらざるを得ず

 1チームしか攻撃していない状況は、確かに違和感があった。普通のサッカーとは言えないかもしれない。だが、もしかするとこれが未来のサッカーなのかもしれない。

 アトレティコの5-5ディフェンスはハンドボールと似ていた。ボールを掴んでいる相手からボールを奪うことは不可能なので、ハンドボールの守備はああなるわけだ。サッカーボールを足で掴むことはできないが、通常のやり方では奪えないとなるとアトレティコがやったようにハンドボール的な守備ライン形成しかない。そして、シティに対してその守備戦術はそれなりに有効でもあった。第1戦を180分間の試合の前半と考えるなら、前半を終えて0-1ならまだチャンスは残る。次はアトレティコのホームで後半だ。

 しかし、大きな問題点がある。5-5-0ではまったく攻撃ができないのだ。

 ボールを奪ってもパスで前進できない。唯一、可能性がありそうなのはサイドでボールを持った選手が独力で行けるところまで前進し、相手に囲まれる前に味方がサポートして何とかボールを中央、逆サイドへ展開すること。これができれば敵陣まで到達できそうだったが、なかなかそこまで行くのも大変そうだった。結局、5-5-0は守備力を最大化させられる代わりに、攻撃力がほぼゼロになるという当然の帰結に終わってしまうわけだ。

 ただし、もしアトレティコにシティ以上の奪われない力があれば話は違ってくる。アトレティコが奪ったボールをシティがハイプレスしても奪えないなら、シティも引くしかなくなるからだ。そうなってはじめてサッカーは戦術的にハンドボールに近づく。その時、我々は現在とかなり違うゲームを見ることになるかもしれない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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