【現地発】「絶対にいけない」――ドイツ指導者が語るサッカー少年少女“育成論”とNG行為
【ドイツ発インタビュー】マインツ・セカンドチームのコーチ、シモン・ペッシュ氏を直撃
2014年のブラジル・ワールドカップ(W杯)優勝後、ドイツの国際舞台での戦績は下がっており、18年W杯グループリーグ敗退、21年欧州選手権(EURO)決勝トーナメント1回戦敗退と望ましい結果が出ていない。また世代交代が上手くいかなかったことなどから、ドイツ国内における育成での取り組みに批判も出てきている。
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育成力とは、選手を育て上げる力だろうか。指導者側からのアプローチ、クラブ側からの設備投資などが決定打となるのだろうか。
では、実際に育成現場の最前線で関わる指導者はこうした流れをどのように見ているのかを知るために、ドイツのマインツ・セカンドチームでコーチを務めるシモン・ペッシュ氏に話を伺った。(全3回の1回目/#2、#3へ続く)
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「ドイツの育成に関してネガティブな意見もいろいろと出ているようだけど、僕はドイツの育成レベルは今も間違いなくトップレベルにあると思っている。勘違いしてはいけないのは、毎年のように5~10人の誰もがうらやむトッププレーヤーが出てくるなんてことはないんだ。
そこには幸運も関わってくる。自然の摂理でもあるけど、その時々でいい波が来ている時とそうではない時がある。かみ合わせもある。例えばドイツはしばらくの間、フル代表でも世代別代表も好成績ばかりを残していたわけだけど、その裏ではスペインやイングランド、フランス、イタリアがそれぞれそれなりに問題を抱えていたという背景だってあったんだよ。逆もそうだ。他国の取り組みが上手くいっている一方で、ドイツのフル代表が流れに乗れていなかったりすることもある」(ペッシュ氏)
何とかしなければという思いは大切だけど、だからといって焦って何もかもをしようとするとおかしくなってしまう。優れた選手を輩出するためには小さいうちからハードトレーニングを積み重ねていかなければならないわけではない。熱心な指導者や親は勘違いをしがちだ。子供たちに少しでも才能があるように見えると、その子がもっともっとできることを夢見て、明日にもすごいプレーができるようになることを望んでしまう。
日本でもそうした考え方が少年少女のスポーツシーンでは目立つし、ドイツでも最初はみんなそうした傾向を持ってしまいがちだ。「プロになりたい!」という夢は素晴らしい。でもそのために子供たちが子供たちらしく成長する機会を奪うことはあってはならないはず。
だからこそ親や指導者の理解が求められるし、そのためには協会やクラブが正しい情報を正しく出していくことが必要になる。ドイツでは「結果を出さなければ」というプレッシャーから指導者や選手をある程度解放して、プレーの質の向上にもっと集中して取り組めるようにと、幼稚園・小学校期の試合環境を整理しているし、それこそ育成年代トップリーグのはずのU-17、U-19ブンデスリーガを廃止の方向に進んでいる。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。