“偽の笛”はスポーツの正義を踏みにじる Jリーグで起きた問題とW杯史上最大級の汚点

名古屋×横浜FMで起きた“偽の笛”に注目【写真:Getty Images】
名古屋×横浜FMで起きた“偽の笛”に注目【写真:Getty Images】

【識者コラム】笛が鳴って足を止めやすいのは守備側、1982年W杯では歴史的な事件に発展

 笛が鳴るまでプレーを続けなさい。我々が子供の頃はそう教えられた。今でもそうだろう。じゃあ、笛が鳴ったら? 笛が鳴ったらプレーをやめなさいと言われたことはないけれども、まあ普通はやめる。やめないまでも「何だろう?」とは思うので、足は止まりかけるし集中も切れる。

 J1第29節の名古屋グランパス対横浜F・マリノス、名古屋のFWシュヴィルツォクがディフェンスラインの裏へ抜け出した時に笛が鳴った。シュヴィルツォクも横浜FMの選手たちもプレーをやめかけた。ところが、その笛は主審が吹いたものではなく、そのままプレーは続行となり、シュヴィルツォクは持ち込んでシュートしたがDFにブロックされた。

 誰が笛を吹いたのかはまだ判明していない。状況から見て、名古屋の攻撃を中断させようという意図があったと考えるのが自然だ。その他の横浜FMの試合でも、攻め込まれた時に主審ではない笛が鳴った試合があることも指摘されている。

 ただ、攻撃側はプレーを止めない傾向があり、第27節の鹿島アントラーズ戦では上田綺世が抜け出したタイミングで何者かの笛が鳴ったようだが、上田はそのままシュートを決めている。むしろ足が止まりやすいのは守備側だ。名古屋戦でも横浜FMの選手はいったん止まりかけていた。シュヴィルツォクがスピードを緩めなかったら得点していたかもしれない。

 “偽の笛”で有名なのが、1982年ワールドカップ(W杯)の1次リーグ、フランス対クウェートだ。

 笛が鳴ったのはフランスのミシェル・プラティニからアラン・ジレスにパスが出た瞬間だった。クウェートのDFはオフサイドだと思ってプレーを止め、ジレスはフリーで抜け出してネットを揺らしている。この後半40分の時点でフランスは3-1とリードしており、ジレスのゴールで4-1のはずだった。ところが、クウェート側が判定に抗議。スタンドにいたクウェートのファハド王子がフィールドまで下りてきてクウェート選手の引き上げを指示し、試合は一時中断。審判団と大会役員を巻き込んでの騒動の末、フランスの得点は取り消されて試合再開となった。終了間際にフランスが加点して結果は4-1だったが、W杯史上最大級の汚点と言える。政治権力の介入で判定が覆る、あってはならない事態だった。

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西部謙司

1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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