去就問題に揺れたケイン、残留の理由 248億円で売却約束…トッテナム会長“執念の読み”

マンCの世間的な印象は“かなりダークな灰色”

 ここで一つ指摘しなければならないのは、総収入はユーロだが、移籍金は英ポンドということだ。この原稿を仕上げている8月26日の為替レートを参考にすると、ユーロは1ユーロ=約130円。一方のポンドは約155円(小数点以下四捨五入)。ということは日本円換算すると、昨季のシティの総収入は713億9600万円。それに対し、グリーリッシュに加えてケインを獲得していれば、その移籍金合計は403億円となる。残りは310億9600万円。これで年俸31億円のケビン・デ・ブライネをはじめ、24億円のラヒーム・スターリング、20億円のジョン・ストーンズ、そして新加入ながら年俸19億円選手なったジャック・グリーリッシュといった高給取りが揃ったチームの給料をどうやって支払うというのだろう。

 FFP、いわゆるファイナンシャル・フェアプレーは人件費が総収入を超えてはならない。過去3年間の合計で審査されるが、コロナ禍の影響を受けて収入激減の厳しい真っ只中にあって、英国の移籍金記録を一夏で2回も更新させ、これだけ明らかに莫大な金額を使えば、FFPの規則に抵触してしまう可能性は極めて高くなる。

 しかもシティは昨年、UEFAにFFP違反を咎められ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)をはじめとするUEFA主催大会への2年間の出場禁止処分に加え、3000万ユーロ(約39億円)の罰金も科されている。

 クラブ関係者の個人メールの中に、メインスポンサーであるエティハド航空のコマーシャル収入に“水増しがあった”という事実を証明する記述があったという。ご存知の通り、エティハド航空はアブダビ・グループの同国企業で、シティのオーナーとは密接な関係がある。水増しされて申告されたスポンサー料と実際にエティハド航空から支払われた金額との差額はアブダビ・グループが負担し、FFPに抵触しないような会計処理をしたというのがことのからくりだった。

 さらにUEFAは「こちらの調査要請に全く協力しなかった」とし、疑惑に対するシティ側の態度も糾弾した。

 ところがシティは敢然とCSA(スポーツ仲介裁判所)に起訴。それこそここでも金に糸目をつけず、優秀な弁護団を雇い入れたに違いないが、そもそも証拠が個人メールのハッキングという違法行為だったこともあり、UEFA側の敗訴となった。この結果、欧州カップ戦の出場停止処分と罰金が撤回されたが、シティが調査協力を拒否したことに対しては1000万ユーロ(約13億円)の罰金が科された。

 もちろんこの判決結果で、シティ側は“我々は無罪だ”と声を張り上げたが、世間的な印象はかなりダークな灰色である。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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