ドイツの学者が「PKキッカーの心理状態」を研究 一瞬の勝負と駆け引きの“ドラマ”
【ドイツ発コラム】ホッフェンハイムGKバウマンの驚異的なセーブ率、背景にある詳細な分析
11メートルの距離で向き合い、相手DFの邪魔を受けずに、自分のタイミングでシュートが打てる。決めなければならないというプレッシャーはある。でもPKは決めて当たり前。それが定説だろう。
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そんななか、ホッフェンハイムGKオリバー・バウマンが凄い。今シーズン公式戦で、9回の被PKのうち、なんと5回もセーブしているのだ。その秘密について、バウマンはこう明かしている。
「僕の場合は長く待って、素早く飛びつく。その前にもちろん少し観察することは必要だよ。前回相手はどこへ蹴り込んでいたのか。どのようにボールへ走り込んでくるのか。蹴る前に顔をもう一度上げるのか、上げないのか。そうしたすべての要素がある」
直近だとバウマンは、第18節ケルン戦(3-0)でFWアントニー・モデストのPKを阻止している。
「彼の顔をじっと見てたんだ。でも彼は僕が動いているかどうかを見ていない。そうなると蹴る瞬間に飛ぼうと考える。あとはもうタイミングだね」
今の時代、分析は当然行われ、癖や特徴はデータとして伝搬される。試合中にPKとなった段階で、過去のデータからキッカーがどこへ蹴るかの傾向を伝えることだってできる。GKの様子を最後まで見て、動きの逆に蹴り込もうとするキッカーも多いが、それも定番になってきたことでしっかり対処してセーブなんてこともある。実際にここ最近のブンデスリーガではPK失敗が少なくない。となると、キッカーのほうもそれに応じた対処を身につけておいたほうがいいのだろうか。
ホッフェンハイムには優れたPKキッカーもいる。クロアチア代表FWアンドレイ・クラマリッチだ。ブンデスリーガで22回PKを蹴り、20回決めている。これ以上の成功率を誇るのは、バイエルン・ミュンヘンのポーランド代表FWロベルト・レバンドフスキだけ。そんなクラマリッチは、PKを蹴る時に次のようにしているという。
「どこへ、どのように蹴るかはいつも変えている。GKが僕とのPKに準備していることは知っているから」
GKがキッカーを分析するのなら、キッカーがGKを分析することだって必要になってくるのだろう。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。