サッカーの流行は「真似した頃には過ぎ去る」 南米で学んだ“正解に固執しない”重要性

“世界のトレンド”は学ぶが、疑いもなく取り入れるのは危険

 岡山にやってきた時も「相手にボールを持たせて、奪ったらだいたいのイメージでスペースへ蹴りセカンドボールを拾う。そんなリアクションが多かった」という。亘は考えた。

「もちろんそのサッカーも悪いわけではない。でも世界にも日本にもいろんなサッカーがある。リアクションだけではなく、アクションもできなければならない。それに監督の指示だけではなく、選手たちが相手を見て考えることは絶対に必要だ。それなしには、この先サッカーで食べてはいけない」

 少しずつでも意図的にボールを繋ぐテーマを軸に、丹念な指導を続けた。

「最初はカウンターを狙える局面でも、敢えて遅攻にこだわりました。前に運べるのに、再度アンカーやセンターバックに戻してやり直し。崩し方を教えたかったからです」

 敢えてトレンドを追わない。それが亘のモットーだ。世界の流れは学ぶ。ただし疑いもなくそれを取り入れるのは危険だ。

「(フィリップ・)トルシエ監督が日本代表にフラットスリーを導入した頃の話です。まだ代表でも完成していないのに、河川敷で行われている中学生の試合で監督が3バックを無防備に採用していた。選手たちは、ボールや相手よりベンチの監督の顔色を窺いながらプレーしている残念な光景を見ました。最近もバルセロナが常勝すればパス回しの流れが押し寄せ、今度はリバプールが前線からプレッシャーをかけ縦に速いショートカウンターで勝ち始めればそちらになびく」

 でも“それって本当に必要なのかな……?”と、いつも亘は自分に問いかけている。

「確かにこれまでは日本サッカーも経済も世界を勉強して真似することで成長してきました。でもトレンドは、真似して取り入れる頃には過ぎ去っているんです」

 アルゼンチンでは、こんな話を聞いた。

「その昔、アルゼンチン人はいち早くオフサイドトラップを考案しました。ところがそれを欧州勢が駆使してくると、今度は相手に体をぶつけてラインを上げさせないようにする“オフサイドトラップ破り”を編み出した人がいたそうです」

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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