元浦和FWワシントンが誓う日本への“凱旋” 「浦和に対する使命はまだ終わっていない」

父アントニオと息子アントニオ・ワシントンとのショット【写真:本人提供】
父アントニオと息子アントニオ・ワシントンとのショット【写真:本人提供】

「今起こっている新たな闘いに勝とう。ガンバレ、ニホン!」

 翌年はイタバイアーナというセルジッピ州のクラブを指揮。ただ、監督業に燃えていた彼を政界が呼び戻した。2019年、ブラジル連邦政府に新しく創立された、スポーツ・教育・レジャー、およびソーシャルインクルージョン国務長官の役職に就任したのだ。

「連絡を受けた時は、あまりの大役で冗談かと思ったよ。スポーツとレジャーはもちろん、教育とソーシャルインクルージョンの分野を手がけるのは、とても興味深い。国民にとってとても重要なことだから」

 再び政治家魂に火が付き、引き受けたものの、今度は8カ月で、サッカー界がワシントンを呼び戻す。ブラジルサッカー連盟(CBF)が、ブラジルサッカー開発ディレクターとして招聘したのだ。彼は「難しい決断」をして国務長官を離任、慣れ親しんだサッカー界に帰ってきた。実際には、このすぐ後にトラブルがあり、就任3カ月でこの役職を離れることになるのだが……。

 現時点では、新型コロナウイルスのパンデミックの中で、大学の要請でオンライン講義などもしながら、以前から続けてきた少年サッカーキャンプ再開のタイミングを見計らっている。これまで政界とサッカー界が綱引きをしてきた彼のこと、また新たな挑戦を始める可能性も大きい。

 そんな彼が、これまで言い続けていることがある。

「もちろん、ブラジルでサポーターや国民に愛されているのは、本当に大事なことだけど、人には誰でも、心の中に抱き続ける思いというのがあるよね。僕にとっては、それが日本なんだ。ピッチの内外でいろいろな経験を積んでいる今、どういう役割かは分からない。だけど、チャンスがあるなら僕は日本に帰るよ」

 最後に、今だからこその、ワシントンからのメッセージを伝えたい。

「世界中が新型コロナのパンデミックによって、厳しい日々を過ごしている今、日本のみんなへのメッセージは、強くあろうということ。そして、知識を持ち、賢くあろう。日本の人たちもこれまで、地震や津波などの自然災害による、多くの困難に出会い、乗り越えてきた。まさに戦士のような国民なんだ。だから、もう一度だ。もう一度、団結する時が来た。みんなで乗り越えよう。今起こっている新たな闘いに勝とう。ガンバレ、ニホン!」

藤原清美

ふじわら・きよみ/2001年にリオデジャネイロへ拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特に、サッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のテレビ・執筆などで活躍している。ワールドカップ6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTubeチャンネル『Planeta Kiyomi』も運営中。

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