世界各国リーグは6月再開も難しい? 新型コロナで歴史的危機も…サッカーは必ず復活する

戦争を生き抜きイングランドで輝いたドイツ人スター選手

 第二次世界大戦にドイツの軍人として参戦していたバート・トラウトマンは、捕虜となっている時のプレーが評判となってマンチェスター・シティと契約した。伝説のGKとして語り継がれ、大英帝国勲章も受賞。トラウトマンと同種の受賞者としてデイビッド・ベッカム、ライアン・ギグスがいる。ミュージシャンではジミ・ヘンドリックス、カイリー・ミノーグ。さらに余談だが、これより一つ上の勲章を授与されているのが、アレックス・ファーガソン。さらに上のランクではビル・ゲイツ、豊田章一郎らと並んで日本サッカー協会会長だった野津謙が受章している。

 トラウトマンはドイツ軍のパラシュート部隊に所属、部隊は何度か前線で壊滅しロシアとフランスで捕まったが、その都度脱走に成功していた。しかし、ついに英国軍の捕虜となり終戦を迎えた。リバプール郊外で農場労働を強いられながらプレーしていたトラウトマン見たさに、9000人が集まったという。シティと契約した時には、元ドイツ軍人ということで反発が強く、2万人規模の反対デモがあった。だが、シティのエリック・ウェストウッド主将は「シティのロッカールームにもう戦争はない」として、トラウトマンを迎え入れている。

 1956年のFAカップ、トラウトマンは試合中の衝突で首の一部を骨折しながら3-1の勝利に貢献。優勝メダルを首が傾いたまま授与された。同時代のGKレフ・ヤシンに「私と同レベルのGKはトラウトマンだけ」と言わしめ、PK阻止率はなんと60%というスーパーGKだった。しかも驚くのは、ハンドボール選手だったとはいえ、トラウトマンはサッカーではセンターバックで、GKへ転向したのは英国での捕虜時代だったという。

 最近、パラグアイの刑務所でロナウジーニョが大活躍中というニュースがあった。今、世界中でボールを蹴る音は聞こえなくなってしまったが、たとえ何年この状態が続いてもサッカーは必ず復活するに違いない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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