松田直樹が残したもの

 気が付けば、四回忌。あっという間である。しかし、松田に関わった人々の中にはまだその死を実感できていない者も少なからずいるのではないだろうか。

 一旦、火が付いたら何者にも止められない「熱さ」を秘め、相手が誰であっても、取り巻く環境がどんなに過酷でも、抗い続けた男。だからこそ、生前の記憶は多くの人々の中に生き続け、その存在は簡単には薄れていかない。

 ある時、サッカー選手として晩年にさしかかっていた松田はこう漏らした。

「お金を出して見ている人、ファンやサポーターにとってはさ、パスを回して淡々とやってます、だれが出てるか分からない、そんな試合って面白いのかなって思うだよね」

 当時はバルセロナが隆盛でパスサッカーを標榜するチームが増えていた時期だった。自然とJリーグにもその波は押し寄せ、戦術やフォーメーションに選手を当てはめ、パスで崩そうとする指導者が増え始めていた。

 そんな状況に松田は疑問を投げかけた。

「バルサくらいパスをミスらないで回せるなら面白いけど、今は日本の監督もバルサとかそこを目指してるじゃない。でも、そうじゃなくて、ホントは自分たちの理論だったり、そのチームにいる選手によってサッカーは変わるじゃん。俺はそう思うから。その前にバルサ式とか言って、それは駄目でしょ」

 そしてこう付け加えた。

「フォーメーションは何でもいい。個性があったほうが、ファンは喜ぶんじゃないかなって思う。どんなポジションでもね。サイドバックでもダニエウ・アウベスだってあれほど背がちっちゃくても、あんなプレーができちゃう。だからみんな好きなわけじゃん。淡々としたサイドバックだったら、みんな見ないじゃない。そういう個性だからみんな見る。でも、今は監督の言うことをきくやつがオッケーみたいな。淡々とやるやつがさ」

 その言葉はかすかに怒気を帯びていた。

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