トレンドという言葉だけでは語れない2014ブラジル大会の総括 ドイツが示した「南アフリカからの進化」と「世界で勝つために必要だったもの」

大会総括:「ベースとなる秩序」と「長所を生かした戦い方」

 これまでのワールドカップでは大会を通して世界サッカー共通の方向性とトレンドが見られていた。DFB(ドイツサッカー協会)とBDFL(ドイツプロコーチ連盟)共催で行われる国際コーチ会議でのテクニカルレポートによると、2010年ワールドカップでは「守備陣形はペナルティエリアから10〜20mの位置」「状況に応じたプレス」「守備的なサイドバック」「ポゼッションを主調としたスタイル」「攻撃陣のポジションチェンジ」といったキーワードが挙げられた。

 スペイン、オランダ、ドイツの上位3か国を初め多くの国が4-2-3-1システムを基本陣形とし、どのポジションにどんな選手を置くかでチームとしての違いが見られた。そしてベースとなる考え方はそのままに、完成度を高めていくという傾向は、2012年欧州選手権まで続いていた。

 しかし今大会では、それぞれの国がこれまであった主流的な戦い方をベースに、自分たちの長所を生かしたやり方を模索し、それを練り上げてきたのが特徴といえるのではないだろうか。“共通したトレンド”といった安易なものではなく、上位進出した国からは「高水準の基本戦術理解」「長所を生かした戦い方」「状況に応じた対応力」「適切な判断とそれを実現するスキル」といった傾向を探し出すことができる。これは選手個人としても、指揮を取る監督からも、そしてチーム全体としても必要なものだった。

 例えば、コスタリカ代表は、かつてイタリア代表が見せていたカテナチオすら彷彿とさせる見事なまでの守備組織と両サイドをワイドに使ったカウンター主体の攻撃でベスト8進出。チリ代表は豊富な運動量とコンパクトな守備からの積極的なプレス、そしてペナルティエリア付近のアイディアとスピードがあり、サイドにポイントを作った後にエリア内のスペースに走り込むタイミングとそのスピードは大会随一のものだった。

 あるいは準決勝・3位決定戦では悲劇的な姿を世界に見せてしまったブラジル代表も、準々決勝のコロンビア戦ではチーム全体として縦への推進力を武器にスピード豊かなサッカーを見せていた。ただそうした勇敢な戦法も、対応力が高かったオランダやドイツを相手であると、同じように挑むだけでは無謀となってしまう。ネイマールの負傷離脱という不運があったとはいえ、残念ながら今大会の王国には「個人・チーム全体での判断力とスキル」が「3強」ほどではなかった、ということだろう。

 その点、決勝に進出したドイツとアルゼンチンはチームとしての引き出しが多く、またそれぞれの質も非常に高かった。基本的な戦い方を持ちながら、対戦相手の特徴・試合状況などに合わせて対応できるだけの成熟さを選手が持っていた。

 そして、その積み上げてきたものの質と量でドイツがアルゼンチンを上回った。2006年大会に出場していた選手が5人もいながら、各世代がバランスよくミックス。経験だけでも、若さだけでもない。一貫した哲学を浸透させ、世界のトレンドも取り入れる柔軟性も持ち合わせていた。監督のレーフは代表を「ファミリー」と呼び、代表合宿を重ねるごとに、大会を戦うごとに、自分たちの戦い方を練り上げていった。経験は積み重ねていくことで知恵となり、体験は乗り越えていくことで自信となった。

 ケディラにアクシデントがあっても動じることなく、代わって入ったクラマーにトラブルがおきても、難なく対応してみせた。選手交代は監督が評価される一つの要素だが、重要なのは交代で入れた選手が活躍するかどうかだけではなく、その交代からピッチにいる他の選手が監督のメッセージを感じ取り、即座にやるべきことを整理できるかどうかだ。そういう意味では、ドイツはあらゆる状況に対応できるだけのインテリジェンスを備えていた。

 「高水準の基本戦術理解」「長所を生かした戦い方」「状況に応じた対応力」「適切な判断とそれを実現するスキル」全てでハイクオリティだったドイツが、ついにその収穫の時を迎えた大会であった。

 

文・中野吉之伴

秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。

 

企画/COACH UNITED編集部

※ワールドカップ期間中、記事内で扱うシーンの一部はFIFAワールドカップ公式動画配信サイト&アプリ『LEGENDS STADIUM』のマルチアングル動画、選手毎のスタッツデータで確認できます。
詳しくは、「LEGENDS STADIUM 2014 – FIFAワールドカップ公式動画」まで

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