そこに“長谷部誠がいた” 傑出した予測力が支える充実の時「この時間を楽しみたい」

ブンデス4位、EL準決勝進出の現状は「本当に願ってもない、素晴らしいこと」

 相手FWの置かれている状況、味方GKやDFの位置からどんなプレーを選択し、どこへボールを運んでくるかを予測する。その判断スピードと精度が極めて高いのだ。そして、この予測能力の高さがさまざまな場面で長谷部の好プレーを支えている。

 前半21分のシーンもそうだ。ヴォルフスブルクはフランクフルトのCKからカウンターを仕掛けていた。MFアドミル・メーメディが右サイドから持ち運び、センターでゴール方向へと猛ダッシュを仕掛けていたヴェフホルストへラストパスを狙った。だが、そこには長谷部がいた。まるで長谷部がいるところに相手がパスを出しているかのように見えてしまう。それくらいポジショニングと状況判断が適切なのだ。

 プロの選手でも、プレーしながら周囲の様子を素早く正確に把握するのは難しい。だから外から見ていて「なんであんなところにパスをするんだ?」と思われるプレーが起きてしまう。そうしたズレが、今年35歳となった長谷部にはほとんど見られない。常に相手より動き出しが早い。浮き球を処理しようとしている時に相手選手が自分のほうに猛スピードでプレスをかけてきていても、まるで動じることなく胸トラップでボールをコントロールし、味方選手に正確なパスを出すことができる。

 ディフェンスアクションからボールを味方につなぐというのは、その後の攻撃をより円滑に進めるために欠かせない大切なスキルだ。長谷部を中心としたフランクフルト守備陣は、相手の攻撃をただ跳ね返すだけではなく、瞬時に攻撃へと転ずることができる。それがブンデスリーガで現在4位、UEFAヨーロッパリーグ(EL)でも準決勝に進出している好調さの要因の一つなのだ。

「ブンデスリーガでCL出場権獲得と、ELではいけるところまで。もちろん両方取りに行きたい。どっちがというのはね、今の自分たちにはない。シーズン最後に来て両方こういう立ち位置にいれるというのは、本当に願ってもない、素晴らしいことだと思う。身体的にもきついはきついんですけど、この時間を本当に、ドイツ語でいう『Genießen』(ゲニーセン:楽しむ、享楽するの意)というのかな、本当に楽しみたいというか、そういう感じはありますよね」

 やれる限り戦い抜く。残り試合に全力で挑んでいく。どこまで辿り着けるのだろうか。フランクフルトのラストスパートは、ファンにとっても楽しみなことばかりだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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