逆境を常に乗り越えてきた長友 「今、信じることは勝利」

 勝利を求めたギリシャ戦は、退場者を出した相手を追い詰めたが、スコアレスドローに終わった。焦燥の90分間を振り返り、後悔を口にする。

「結局は、引いた相手をどう崩すか。そこはずっと課題として意識してやってきたけど、クリアにされないまま(ゴールを)決められなかった。あれだけ引かれてすごくやりづらかったけど、でもすべては言い訳になってしまう」

 しかし、そう言葉にしたが、すぐに自分を戒めるように続けた。

「後ろ向きになっていても仕方ない。前を向くしかないですね。後がないほど、前を向くしかなくなる。その状況であきらめたら、可能性はゼロになる。信じて戦うしかない。落ち込むというより、勝てなかった悔しさがあった。ただ、過去を振り返っても仕方がない。それは、みんな言わなくても分かると思う」

 常に前だけを見てきた。長友はFC東京からイタリアへと渡った半年後、チェゼーナから強豪インテルへの移籍を勝ち取った。だが、名門への加入当初、ビッグクラブ特有のプレッシャーや激しいポジション争いに巻き込まれ、コンディションを落としたことがあった。FC東京の現強化部長である立石敬之が、様子を見にミラノを訪ねたのはそのころだった。長友が抱える焦りや、いら立ちは、プロの階段を駆け上がる過程をすべて見守った立石の目にも色濃く映った。「試合に出られるクラブを探した方がいいのではないか?」と、声を掛けようとした。だが、ある行動を見て思いとどまったという。

 チャンピオンズリーグのシャルケ戦の翌日の朝一番だった。突然、長友は「オレ、ちょっと行ってきます。練習が足らないんで」と、自宅から練習場へと車を走らせた。そして、チーム練習がオフの日、誰もいないピッチで一人黙々と走った。誰に言われたわけでもなく、強化スタッフを安心させるためでもなかった。立石はその姿を見て、「こいつはどこに行っても変わらない。大丈夫だ」と思った。

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