浅野拓磨に覚醒の予感 自ら語ったハノーファー監督からの信頼「僕を狙えと…」

「ちょっとずつ自分の武器としても出せてきている」

 浅野は試合後「チームで意識できているのが形になったと思います。試合中から監督がすごい『僕が裏を走ってるから狙え』とか、ボールを持った選手に言っている。ちょっとずつ自分の武器としても出せてきているかなと思いますし、チームとしても意識してくれているかなと感じました。まだまだですけど」と落ち着いた様子で答えていた。走ったところにパスが出てくる感覚は心地良いものだろう。

 昨季まで2シーズンにわたってプレーしたシュツットガルト時代は、走ってもパスが来ないことが多かった。だが、監督にはもっと走れと言われる。パスが出てきても、パスの出し手の一方的なタイミングで蹴りこまれることも少なくなかった。そうなるとボールに追いついてもサポートがなく、ゴール前に複数選手にマークされている味方が1、2人しかいない。でも、そこからこじ開けられないからダメだと指摘される。何かがずれている――浅野はもどかしさと向き合わざるをえなかった。だが、こうした時間が無駄になることはない。

 サイドでの起用で苦しみながらも現実と向き合い、練習に取り組んだ。その姿勢はかつて同クラブに所属した日本代表FW岡崎慎司(レスター・シティ)と似ているものがある。岡崎もシュツットガルト時代に苦労し、その後マインツで自分の長所を理解し、信頼してくれる監督の下で花開いた。

 もちろん、まだテストマッチでの結果だ。ブンデスリーガの本番で結果を出せないと、チームにとっても、個人にとっても苦しくなる。そうした時に支えとなる存在がいるかどうかは重要だ。

 チームを率いるアンドレ・ブライテンライター監督が評価してくれているのは大きい。加入時には浅野のことを「素晴らしい資質を備えたスリリングな選手」と評していた。サイドではなく、得意なポジションで起用してくれているのも期待と信頼の表れだろう。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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