西野J快進撃の根底に息づく“ハリルの遺産” プロ集団に変えた「戦う意識」と「経験則」

ブラジルW杯とは異なり「2日前入り・当日帰り」のルーティンを組んでいる【写真:Getty Images】
ブラジルW杯とは異なり「2日前入り・当日帰り」のルーティンを組んでいる【写真:Getty Images】

ブラジルW杯とは異なる「2日前入り・当日帰り」のルーティン

 それ以外にも4年前との違いは指摘できる。ブラジルW杯のベースキャンプはサンパウロ郊外のイトゥで、敷地内にはゴルフ場もあったが、街からはかなり離れていて、選手は隔離された状態だった(隣接してキリンの工場があった)。

 今回、ハリルホジッチ元監督がベースキャンプに選んだのは街中にあるルビン・カザンのトレーニング施設だ。道の反対側にはマクドナルドがあるなど、そこには日常生活が息づいている。空港からも近く、MF香川真司は「移動距離も近いし、試合会場も近い」とロシアでの環境を歓迎する。

 そして最後に、これは誰が決めたのかは分からないが、試合会場への移動も4年前とは違った。ブラジルW杯ではほとんどのチームが試合2日前に現地入りし、試合後はチャーター機でベースキャンプに戻り、翌日はいつも通りクールダウンに当てた。

 しかし、アルベルト・ザッケローニ前監督は1日前に現地入り。試合当日はホテルに宿泊し、翌日の移動を選択した。「試合後はしっかり食事を摂らせたい」という理由からだ。ところがイトゥの気候は肌寒い。それに比べて日本の試合会場はいずれも海に近く、湿度が高かった。環境の変化に慣れるためにもキャンプ地の選定には疑問が残った。

 ただ、ロシアW杯での西野ジャパンは2日前に試合会場へ移動し、試合後はチャーター機でベースキャンプに戻っている。これは推測に過ぎないが、ザッケローニ前監督はW杯の経験がないため、ACミランやユベントス時代の感覚で、UEFAチャンピオンズリーグなどヨーロッパ域内での移動を想定して、「前日入り・翌日帰り」をリクエストしたのではないだろうか。

 これらは全て、経験したことで分かったことでもある。些細なことではあるが、こうした細部にこだわることとその積み重ねも、短期決戦のW杯を勝ち抜くには必要なことかもしれない。

(六川亨 / Toru Rokukawa)



六川 亨

1957年、東京都生まれ。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年に退社後はCALCIO2002、プレミアシップマガジン、サッカーズ、浦和レッズマガジンなどを創刊して編集長を務めた。その傍らフリーの記者としても活動し、W杯や五輪などを取材しつつ、「サッカー戦術ルネッサンス」(アスペクト社)、「ストライカー特別講座」、「7人の外国人監督と191のメッセージ」(いずれも東邦出版)などを刊行。W杯はロシア大会を含め7回取材。現在は雑誌やウェブなど様々な媒体に寄稿している。

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