「悔しさはある」プレミア制覇の遠藤航が明かす王者の本音と葛藤 魂の69分で証明した「6番」の真髄

1-3で敗れるも今季リーグ初先発を飾ったリバプールの遠藤
ついに訪れた、今季リーグ戦初先発。リバプールの遠藤航は、5月4日の第35節チェルシー戦でスタメンに名を連ねた。アルネ・スロット新体制下では、クローザーとしての途中出場に留まっていた遠藤。チームのプレミア優勝が決まった前節トッテナム戦(5-1)などは、右サイドバック(SB)としての投入だった。だがこの日は、本来の中盤中央でキックオフを迎える機会を与えられた。
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チームとしての結果は、敵地での敗戦に終わった(1-3)。内容的には、「勝利意欲の差」と評されても仕方がなかった。チェルシーは、まだUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いの真っ最中。MFエンソ・フェルナンデスが、先制ゴールを決めた前半3分から、FWコール・パルマーが駄目押しのPKを決めた後半アディショナルタイム6分まで、必死に得点と勝ち点3を求め続けた。
一方のリバプールにとっては、プレミア戴冠後の消化試合。主将のフィルジル・ファン・ダイクが、後半40分のコーナーキックに頭で合わせ、一矢を報いるだけに終わった。前節から6名のスタメン入れ替えは、レギュラー陣の休養が主目的。攻撃的な6番として、新監督による抜擢に応えてきたライアン・フラーフェンベルフは、ベンチにもいなかった。
しかし、代わりにチャンスを得た選手にとっては、意義あるリーグ戦以外の何物でもない。その1人である遠藤は試合後、「ゲームプランを意識するなかで、いかに自分の良さを出せるかにフォーカスしてプレーしました」と、素直に語っていた。
そして、「個人的には、そんなに悪くなかったと思っています」との自己評価には、素直に頷ける。今季プレミアで起用された過去17試合、出場時間が3分程度であれ、30分以上であれ、遠藤は課された任務を着実に遂行してきた。18試合目にして最長となる69分間のパフォーマンスも、例外ではなかった。
決して、簡単なことではない。例えば、控え左SBのコスタス・ツィミカスは、チェルシーのトップ下で、最重要警戒が必要となるパルマーが好んで流れるサイドでもあるとはいえ、自軍左サイドを侵入ルートとされた。
2失点に絡んだセンターバック(CB)のジャヤレル・クワンサーは、ほぼ5か月ぶりのリーグ戦先発だった。後半11分のオウンゴールは不運な事故。CBコンビを組むファン・ダイクが蹴り出そうとしたボールが、目の前にいたクワンサーの身体で跳ね返ってしまった。だが、間に合わないと承知で足を出し、3失点目を喫するPKを与えたファウルは軽率だった。

守備で“らしさ”、攻撃でも存在感を発揮
遠藤にも、1失点目のシーンでマークを誤ったという見方はあるかもしれない。チェルシーが速攻に転じた場面で、遠藤はハーフウェーラインからパルマーを追走した。最終的にネットを揺らすE・フェルナンデスに、味方は誰も付いていなかった。
しかしながら、これは相手ボランチに困難な咄嗟の二者択一を強いた、パルマーのランを褒めるべきだろう。実際には、パルマーと並走しながら、あと半歩でラストパスとなった折り返しをカットできるところだった。フラーフェンベルフであれば、E・フェルナンデスに付いていたとも思い難い。
逆に、遠藤らしい守りは複数の場面で確認された。先制された2分後、相手ウインガーのノニ・マドゥエケが好機を逃した一因は、本職6番によるチェイシングとプレッシャーにある。実際のチェルシー2点目は、遠藤のスライディングタックルがなければ、マドゥエケに決められていたはずだ。チームのMF陣では抜群の守備能力を持つボランチの足が、一瞬早くマイナスの折り返しに触れたことで、少なくともファン・ダイクがクリアを試みることができた。
スロットが6番役に求める攻撃面でも、遠藤は絡んでいたと言える。キックオフ後、最初に攻め込んだのはリバプール。開始20秒で、右ウインガーのモハメド・サラーがアシストを狙った攻撃では、アタッキングサードで受けたボールを、右SBトレント・アレクサンダー=アーノルドへとつないでいる。
リードを奪われたあとは、必然的に積極性も増した。シュートには持ち込めなかったものの、自ら相手ボックス内に顔を出したのは前半26分。センターサークル内でフィードを受けた遠藤は、ファーストタッチとターンでE・フェルナンデスのマークを剥がすと、2ボランチを組んだカーティス・ジョーンズに預けたあとも足を止めず、スルーパスに反応した。
交代5分前の後半17分になっても、後方から受けたボールを持って上がって前線でつないでいた。結果としてのコーナーキックは、CBのファン・ダイクがヘディングシュートを放つ“予行演習”となった。
プレミア優勝も心に残る悔しさ
それだけに、攻撃的MFアレクシス・マック・アリスターとの交代を必要とした追う展開と、敗戦という結果が悔やまれる。遠藤は言った。
「普段、(今季リーグ戦で)出ていない選手たちがチャンスをもらった時に、いかに高いパフォーマンスを発揮できるかというのは、チームとしてタイトルを獲るうえですごく大事になってくる。今日、そうやって、(あまり)出られてない選手たちがチャンスをもらっても負けてしまったというのは、個人的にも悔しい思いはあるんですけど、それを続けていくしかない。いかにチャンスが来た時に結果を残せる準備を普段からしていくかというところは、すごく大事なところだと思うので、それは来シーズンに向けてというか、残りの3試合も同じようにやっていければと思います」
当人にすれば、優勝メンバーとしての喜びと誇りとともに、胸中に去来する悔しさだろう。前週の優勝決定当夜に心境を話してくれた際、真っ先に「ピッチに立てて良かった」と言っていたのだ。
1週間が過ぎたチェルシー戦後、携帯に届いた大量の祝福メッセージにも目を通し終わったのではないかと尋ねると、遠藤からは「何人かの選手が連絡をくれたりはしましたけど、そんなに友達多いわけじゃないんで(笑)」と、冗談交じりの返答。“サムライ・ブルー”の仲間たちは、クラブで出場機会に恵まれなかった代表キャプテンの心中を察して、控え目だったのではないかと思えたりもした。
改めて、ホームで優勝が決まったトッテナム戦後、中立的な第三者の立場でも強烈に印象的だったシーンについても訊いてみた。ザ・コップ(熱狂的なサポーターで埋まるゴール裏スタンド)の前で、選手全員がチームスタッフと一緒に肩を組んで並び、スタンドのファンも肩を組んでクラブ賛歌『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』を熱唱し合っていた場面、ピッチ上の当事者として、やはり鳥肌ものの感動を味わっていたのかと。
遠藤は、こう答えた。
「もちろん、優勝を目指してやっていたし、少ないチャンスでもしっかり結果を残し続けるというところで、チームに貢献したのはありますけど、ずっとスタメンで出ていたわけではないみたいな、その悔しさはもちろんあります。でも、リバプール・ファンのみんなは、それ(リーグ優勝決定)を待ちに待って、泣いている選手もいれば、泣いているファンもいて、本当に、この時を待っていたというか、そういう感慨深い瞬間だったとは思うので、そこに、チームの一員としていられたことに関してはすごく嬉しい。もっともっと、そうやってファンを喜ばせられるような選手になれればなと思います」
そのためにも、まだ最終節までアピールの場がある。今季リーグ戦3敗目を喫した直後のロッカールームでは、当然ながら、指揮官からも改めて勝利要求があったようだ。
「最後、盛り返したというか、そこに対して一定の評価はしていたというところですね。来週(次節)は、またアーセナルと戦うということ、ホームゲームですし、負けられないという話はしていました。もちろん、今日もそうだったんですけど。引き続きチームとして、最後までしっかり勝ち続けるところを見せられたらなと思います」
栄えあるプレミア王者の一員となっても、遠藤というボランチの飽くなき戦いは続く。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。