新天地で苦しんだ21歳「何もできなかった」 逆境を乗り越え活躍…強豪との対戦で「怖いものがない」

フライブルクの後藤啓介【写真:アフロ】
フライブルクの後藤啓介【写真:アフロ】

フライブルクの後藤啓介がドイツ杯ヴォルフスブルク戦で2得点の活躍

 ドイツ1部フライブルクに所属する日本代表FW後藤啓介への評価が日増しに高まっている。今季ここまで公式戦11試合に出場し5得点をマーク。出場時間40分で1ゴールという決定力の高さで極上のインパクトを残している。

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 その存在感を改めて見せつけたのが、10月28日のドイツ杯(DFBポカール)2回戦の同2部ヴォルフスブルク戦だった。日本代表で同僚のFW塩貝健人に2ゴールを許し、1点差を追う展開で後半途中から投入されると、CKから打点の高いヘディングで同点ゴールを奪った。後半アディショナルタイムには相手の最終ラインの背後へ抜け出し、飛び出したGKの頭上を越す鮮やかなシュートにより決勝点を奪った。後藤の大活躍でフライブルクは3-2で逆転勝利を収め、3回戦進出を果たしている。

 試合後、チームミーティングのあとにミックスゾーンに姿を見せた後藤に感想を求めると、「いや、もう最高です」と素直に喜びを言葉にしていた。

 そんな後藤が姿を現す前、ミックスゾーンではドイツ人記者たちがクロアチア人FWイゴール・マタノビッチやキャプテンのクリスティアン・ギュンターを取り囲み、この日のヒーローの情報を熱心に収集していた。ある記者が「これから監督会見にいかなきゃいけないから、この質問だけしておいてくれないか」と声をかけてくるなど、現地メディアの注目度が高まっている。

 だがすべてが順調に進んでいるわけではない。後藤にはさまざまな挑戦を乗り越えて戦っている毎日がある。

 ブンデスリーガ第5節シャルケ戦では、途中出場から見事なヘディングシュートで決勝点をマーク。続くレバークーゼン戦では日本代表MF鈴木唯人が累積警告で出場停止となっていたため、加入後初スタメンで出場した。だが強豪相手に存在感を示せず、後半19分にベンチへ退いた。

「本当に何もできなかったなというのが率直な感想です。ミックスゾーンも行きたくないという感じだったので」

 対戦したレバークーゼンは、21歳日本代表が「ブンデスでもトップ5に入るクラブ」と語る強豪。個々の選手もチームとしての戦いも、レベルの高さを感じたという。

「あまりボールに触れなかった。フィジカル的、技術的に、というのはなかったですけど、スピード感だったり、いなし方だったりというのは、ディフェンスをしているタイミングですごく感じました」

 自分の現在地を何よりも感じることができるのが試合という場だ。そうした経験をどのように受け止めたのだろう。

「ベルギーのときもそうでしたけど、初スタメンでの相手が(クラブ・)ブルージュだったんです。レベルの高いところと対戦できたというのは、シント(シント=トロイデン)のときも役立ちました。今回もレバークーゼンという、ドイツでもヨーロッパでもトップクラスのチームとの試合にスタメンで出られた。ああいうところを経験すると、もう怖いものがないと思えるので、良くも悪くも自分にとって収穫の多い試合だったなと思います」

 持ち帰った課題を消化して、次のチャレンジで取り返す。だが、続くUEFAカンファレンスリーグのモナコ戦でも、リーグのバイエルン・ミュンヘン戦でも出番は訪れなかった。

「自分の中で今シーズンは、けがをせず全試合に出るというのを一つ目標にしていた。それがモナコで消え、『じゃあ、ブンデス全試合だ』と思っていたところでバイエルンで消えた。すごく悔しかったです。ただ監督も選ばなきゃいけないので、まず自分がそこに選ばれるに値しなかったというところを反省しなきゃいけない」

 フライブルクはチームの一体感や規律を重んじるクラブだ。試合に出られないからと不満を口に出さず、チームのためにやれることをしようとする選手たちが顔を並べる。だからと言って、試合に出られないことで悔しさを持たない選手がいるはずもない。そんな思いを抱えていたところに、ユリアン・シュースター監督が自ら声をかけてくれたという。

「(メンバーから)外して終わりという監督じゃなくて、しっかりバイエルン戦の後に話しに来てくれました。正直、『なんでやねん。俺を使えよ』という気持ちは、バイエルン戦が終わった後にありましたけど、監督が話に来てくれて、しっかりそのモヤモヤも取れました。今日、絶対にチャンスが来ると思っていたので、監督のためにも期待に応えてやろうと思っていたので、良かったと思います」

 限られた時間でも得点を奪う後藤の強みは、日々の取り組みにも表れている。同僚のGK長田澪に「後藤の良さはどこにあると思う」と尋ねると、「常に点を狙っているというところですかね」と答え、さらに「練習をしていても、ポストプレーとか収めるとかじゃなくて、常にどこにボールがあろうとも得点を狙ってくる。そういうポジショニングだったり、シュートだったりをしてくる。キーパーとしては、すごく嫌だと思います」と明かした。

 ゴール前の一瞬を見逃さず、そこに至るまでの動きにも狙いがある。悔しさを飲み込み、監督との対話を経て迎えたカップ戦での2得点は、決して突然生まれたものではないだろう。数字ばかりが注目を集める後藤だが、その背景には、ピッチに立てない時間も次のゴールにつなげようとする自分との戦いがあるのだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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