9戦7発日本人FWの意外な数字 10.492→10.614→9.512→量産を支えるチームの武器「そのままでいい」

走行距離は減っているもシュート数が増加傾向
日本代表入りが期待されるサンフレッチェ広島の鈴木章斗が好調をキープしている。11日の東京ヴェルディとのJ1リーグ第9節で今シーズン7点目を決めて、得点ランキングの3位に浮上した。湘南ベルマーレ時代の2024シーズンにマークした自己最多の10ゴールに迫りつつある23歳のストライカーは、今年から加入した広島でゴールを量産する理由として「走行距離が大きく減っている」と意外なデータを明らかにした。(取材・文=藤江直人)
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プレータイムに比例するように、相手ゴール前でシュートを放つ回数も、そしてゴール数も増えている。
第9節までを終えた今シーズンのJ1リーグで、サンフレッチェ広島の鈴木章斗はFW登録選手の中で群を抜いて最長となる809分間のプレータイムをマーク。放ったシュートの合計32本はレオ・セアラ(鹿島アントラーズ)の38本に次いで2位にランクされ、そのうち7度でゴールネットを揺らしている。
得点ランキングでは11ゴールでトップを快走するレオ・セアラ、すべて途中出場で8ゴールを決めているMF瀬川祐輔(柏レイソル)に続く3位。シーズンの約4分の1を終えた段階で、湘南ベルマーレに所属していた2024シーズンにマークした、キャリアハイとなる10ゴールの更新を早くも射程距離に捉えている。
今年から加入した新天地の広島で、絶好調モードを加速させている理由はどこにあるのか。鈴木は「今は、そうですね……」とちょっぴり申し訳なさそうな口調で、湘南時代との違いを打ち明けている。
「1年を通じて自分自身、走行距離があまり多くないんですよ。湘南でプレーしていたときと比べると、明らかに走っていないというか、いい意味で走らずともゴールを奪えている状況なんです。何て言えばいのかな。それもあって試合であまり大きな疲れを感じずに、連戦でも普通にピッチに立ち続けられています」
全試合で先発を射止め、後半終了間際に交代した名古屋グランパスとの第5節を除いて、8試合でフル出場を果たしているリーグ戦だけではない。直近では今月7日のいわきFCとの天皇杯3回戦で先発。後半16分までプレーして2ゴールを決めた鈴木は、中3日で臨んだ東京ヴェルディとの第9節で先発フル出場している。
そして1点リードで迎えた後半13分に今シーズン7ゴール目をマーク。敵地・味の素スタジアムで広島を3連勝に導き、柏に勝ち点1ポイント差の単独2位に浮上させた試合後に、湘南時代との大きな差に言及した。
もちろん走れない選手というわけではない。ハードワークが一丁目一番地だった湘南時代の1試合当たりの平均走行距離で、10ゴールを挙げた2024シーズンに10.492kmをマーク。キャプテンと「10番」を託された重圧のなかで9ゴールを挙げた昨シーズンは10.614kmに伸び、総走行距離はチーム最多の343.3kmに達した。
一転して広島へ完全移籍した今年から鈴木の個人スタッツに変化が生じた。チーム最多の5ゴールをマークしたJ1百年構想リーグで、鈴木の1試合当たりの平均走行距離は9.651kmに減少している。
迎えた新シーズンで走行距離が10kmを超えたのは、10.228kmだったセレッソ大阪との第7節だけ。続くアビスパ福岡との第8節では、J1リーグ全体の平均走行距離が10.2kmとされているなかでフル出場した鈴木の走行距離は8.880kmにとどまるなど、9節までの平均は9.512kmとさらに減少している。
対照的にシュート数は大きく増えている。出場20試合で30本を放った百年構想リーグに対して、今シーズンでは前出したようにすでに32本をマーク。チャンスが飛躍的に増えたなかで、鈴木も「相手ゴール前における落ち着きが出てきたというか、自分の時間を作れるようになった」と好調の秘訣を明かしている。
そして走行距離とシュート数が反比例する要因を、鈴木はリーグ最少の6失点を誇る堅守に帰結させた。
「うしろにいるすごく強い選手たちがしっかりと守ってくれているというか、そういう思いがあるなかで、どうしても前に残ってしまう場面がある。そこは直していかなきゃいけないと思っていますけど、今のところは(自分が戻らない状況で)やられたシーンもないので、そのままでもいいのかなというか……そういった感じです」
バルトシュ・ガウル監督の下でも3バックが継続されている最終ラインは、リーグ戦で全9試合に先発している荒木隼人を真ん中に、キャプテンの佐々木翔が左センターバック(CB)を、さらに塩谷司が戦線離脱してからは右ウイングバックの中野就斗が右CBへと配置転換されて堅守を持続させている。
先の日本代表活動で初招集された中野に続いて、追加招集された荒木が最終ラインで存在感を放つ。さらにワールドカップ北中米大会代表の守護神・大迫敬介がゴールマウスを守る安心感は計り知れない。
「うしろの選手たちが本当にしっかりと守って、さらに時間を作って縦パスも入れてくれる。そのなかでチームとしてゴールに迫るシーンやチャンスが増えているので、そこで決め切れているのかな、と」
チームに脈打つ好循環をこう表現した鈴木も、もちろん堅守に甘えているだけではない。自軍のゴール前へ帰陣する回数が減り、自ずと走行距離も減るなかで訪れるチャンスを確実にシュートにまで結びつける。絶対的な信頼を寄せる守備陣の踏ん張りにゴールで応えたい。責任感にも近い思いが鈴木をさらに成長させている。
そしてシュート数を分母、ゴール数を分子とすれば、広島が現在の好調ぶりを持続させていけば鈴木の分母も分子も増えていく。その先には招集待望論も湧き上がっている、初めての日本代表入りも見えてくる。
同じ2003年生まれの23歳で、湘南に同期入団したDF鈴木淳之介(コペンハーゲン)がワールドカップ代表まで一気に駆け上がった。北中米大会後の初戦となった9月のウルグアイ代表戦では、初招集されたこちらも2003年生まれのMF松木玖生(サウサンプトン)がデビュー戦で衝撃的な初ゴールを決めている。
「同世代の選手だけでなく年下の選手もいて、本当にすごい刺激になっています。以前は何か遠い存在だったというか、日本代表への道というものはすごく遠かったと思っていましたけど、今はそんなに……まだちょっと遠いかもしれないですけど、ちょっとずつ、一歩ずつ迫ってきているのかなと感じています」
湘南時代のチームメイトで、1つ年上のMF田中聡(シャルケ)も代表復帰を果たしたなかで、次は自分も、という思いも当然ながら膨らむ。ただ、もう一人の自分が鈴木に「周囲を見ろ」と話しかけてくる。
「得点という数字を出すのも大事ですけど、それでも自分に何か足りないものがあるから日本代表に呼ばれない、というのもあると思う。今はそれが何なのかを探しつつ、一方で自分だけが広島で代表へチャレンジして、チーム自体をおかしくするのもまた違う。そこをしっかり考えていけば、チャンスはあると思っています」
憧れてきた未知の世界への熱い鼓動を覚えながらも、所属クラブを勝たせる仕事に最大限の力を注ぐ。10年ぶりに復帰するも怪我で出遅れていた元日本代表のFW浅野拓磨もヴェルディ戦で初出場を果たし、さらに層が厚くなった広島のFW陣で居場所を死守しながら、鈴木はゴールに絡む仕事を貪欲に追い求めていく。
(藤江直人 / Naoto Fujie)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。























