“可愛い後輩”へ「独自の10番像を作って」 経験したプレーの変化…託す未来「引っ張っていく存在に」

FC東京の佐藤恵允【写真:増田美咲】
FC東京の佐藤恵允【写真:増田美咲】

現役を引退した東慶悟さんが託した思い

 新シーズンからFC東京の「10番」を託されたパリ五輪代表の佐藤恵允が攻守両面で奮闘している。J1百年構想リーグ限りで13年半所属したFC東京を退団し、さらに現役を引退した36歳のレジェンド、東慶悟さんが2019シーズンから背負ってきたエースナンバーを「つけてほしい」と直接言われたのが6月。FC東京の未来を託した東さんと、逡巡しながらもバトンを受け継いだ佐藤との間で紡がれる物語を追った。(取材・文=藤江直人)

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 可愛い後輩が見せたちょっぴり戸惑う反応を、東慶悟さんは今でも鮮明に覚えている。

 2013シーズンから所属してきたFC東京を、今年前半に開催されたJ1百年構想リーグをもって退団した直後。東さんは2019シーズンから背負ってきた「10番」を、佐藤恵允に託したいと本人に打ち明けた。

 よほど意外な展開だったのだろう。佐藤はかなり驚いていたと東さんは苦笑する。

「最初に僕が言ったときはモジモジしていたんですよね。確か『自分が、ですか』とか言って」

 明治大学の卒業を待たずしてブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメンに加入。2025シーズンに完全移籍で加入したFC東京で「16番」を背負い、公式戦で14ゴールを挙げてきた佐藤は「サッカー界では『10番』はエースナンバーとして知られているので」と東さんの打診に逡巡した理由をこう語っている。

「偉大な選手たちがつけていたのもあるし、自分が背負っていいのか、と最初は少し考えました」

 最終的には東さんや、その前には梶山陽平さん(現FC東京U-18コーチ)、さらに三浦文丈さん(前ジュビロ磐田監督)とFC東京の歴代のレジェンドたちが象徴としてきた「10番」を引き継ぐ覚悟を固めた。

 背中を押したのは、戸惑う佐藤に対して東さんがかけたこんな言葉だった。

「もちろん(自分への)尊敬などがあればうれしいけど、とにかく独自の10番像を作ってほしい」

 そもそも東さんが「10番」の後継者として佐藤を指名したのはなぜなのか。いくつかのチームからオファーを受けながらも8月下旬に現役引退を表明。FC東京がホームの味の素スタジアムに京都サンガF.C.を迎えた、6日のJ1リーグ第6節で引退セレモニーと引退会見に臨んだ東さんはこんなエピソードを明かしている。

「僕と彼はロッカーも隣同士でよく話す機会もあって、人間性もすごくいい選手だと思っていました」

 そのうえで加入2年目の25歳の佐藤の成長と、愛してやまないFC東京の未来とを重ね合わせた。

「FC東京というチームがさらに強くなって上を目指していくために、やはり彼が引っ張っていく存在になってほしいと一緒にプレーしていて思いました。そのなかで『10番』を背負うと自分にしか分からないものがいっぱいあるし、それを感じながら成長につなげていってほしいし、そのきっかけになってほしいと思いました」

 東さんにも経験がある。2019シーズンに「10番」を背負ってからの自身の変化をこう振り返る。

「若いころはどんどん前へ飛び出すとか、ゴールに絡むプレーが大宮から東京に来たくらいまでは多かったけど、そこからいろいろと試行錯誤して、どのようにすればこの世界で長く生きていけるのか、というのも考えながら、何を監督が求めているのかとか、(長谷川)健太監督のときにはサイドハーフでもプレーしましたし、最後の3、4年はボランチでもプレーしましたけど、根本的には周りを生かしながら自分も生かし、自分も生きながら周りの選手たちをさらに生かすとか、そういった点を考えながらプレーしていた選手になったと思っています」

 2019シーズンは就任2年目の長谷川健太監督の下でキャプテンを拝命。横浜F・マリノスと優勝争いを展開したFC東京は最終的には準優勝だったものの、それでもクラブ史上で最高位を更新した。

 このシーズンの経験も東さんに変化を与え、将来は指導者になる目標を鮮明に思い描くようになった。

「プロの世界で初めてリーダーという立場になって、キャプテンとして健太さんとコミュニケーションを取る機会も多くなったのがスタートですね。指導者というものにものすごく興味が出てきたんです」

 日本サッカー協会が発行する公認指導者ライセンスを順次取得し始めた東さんは、引退後のキャリアとしてプロの第一歩を踏み出した古巣・大分トリニータのアカデミートランジションコーチに就任。アカデミーの選手たちにプロ選手として必要な心構えや技術などを指導しながら、Jクラブの監督になる夢を追いはじめた。

 全く同じ道を佐藤に歩んでほしいとは思っていない。それでも「10番」の継承が、百年構想リーグから副キャプテンを務める佐藤の心技体にさらにポジティブな変化を与えてくれると、東さんは期待を寄せている。

 一方で佐藤本人はどのような思いを抱いているのか。退場者を出したFC町田ゼルビアとの今シーズンの開幕戦こそ大敗したFC東京だったが、第2節以降は3勝2分と無敗をキープ。東さんがスタンドで見守った京都戦も後半にマルセロ・ヒアン、長倉幹樹がゴールを決めて、相手をクリーンシートに封じて快勝した。

「めちゃ悔しいですよ。自分が点を取れないので。でもチームが勝てば何でもいいのでやり続けます」

 6試合を終えて無得点という個人的な結果に苦笑を浮かべた佐藤は、室屋成がベンチへ下がった後半終了間際には左腕にキャプテンマークを巻いてプレー。東さんに勝利を届けた試合後にさらにこんな言葉を続けた。

「重い番号ですけど、そんなに重く受け止めすぎないというか。ちょっと言い方がおかしいですけど、あまりプレッシャーを感じずに自分らしくプレーしていきたい。上位チームがけっこう負けたなかで勝ち切れたのは成長の証ですけど、勝ち続けないと優勝はないので、このまま勝っていけるようにしたいですね」

 過去から現在、そして未来へと紡がれるFC東京の長い歴史で、13年半にわたってプレーした自分が何を残したのか。こう問われた東さんは「難しいですね、その質問は」と苦笑しながらこんな言葉を紡いだ。

「そこに関しては今すぐというより今後分かるのかな、と。僕がいなくなったあとにどのような反応が起きるのか。選手たちもそうですし、サポーターのみなさんもそうですし、各々が少しでも感じ取ってもらえれば」

 大分の地から見届けるFC東京の変化のひとつに、佐藤が描いていく成長曲線も含まれている。今シーズンのノルマに「10ゴール・10アシスト」を挙げ、自分らしさを追い求めていく先に「背番号や副キャプテンの重みも乗っかってくる」と前だけを一途に見すえる佐藤の一挙手一投足を、誰よりも東さんが楽しみにしている。

(藤江直人 / Naoto Fujie)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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