W杯で注目も…後藤啓介「ずっとやっている」 欧州で心がける”小さな積み重ね”「当たり前じゃない」

フライブルクの後藤啓介【写真:アフロ】
フライブルクの後藤啓介【写真:アフロ】

フライブルクの日本代表FW後藤啓介はチームをサポート

 日本代表FW後藤啓介の振る舞いを、フライブルクのユリアン・シュスター監督が称賛した。カンファレンスリーグプレーオフでスコットランドのマザーウェルとのアウェイ戦に臨んだフライブルクは3-1で先勝。途中出場から待望の移籍後初ゴールを決めた試合後、後藤が浮かれることなくベンチを片付け、チームをサポートしていたことをシュースター監督が地元メディアの取材で取り上げ、「今の世代の子だったら、すぐSNSにアップしたりするようなものだけど」としたうえで、その姿勢を高く評価したのだ。

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 ただ、後藤本人にとっては、特別なことをしているという感覚ではない。

「やっぱり、こういう良いときこそ、勝って兜の緒を締めよじゃないですけど、良いときこそ地に足をつけて、しっかり足元を見ていくというか」

 ベンチを片付けることも、単なる礼儀やマナーとしてだけで捉えているわけではない。

「サッカーができる環境が当たり前じゃないですし、ベンチを片付けると言っても、実際、アウェイでそこを使わせてもらっているのは僕たちなので。そこは相手に対してリスペクトを持ちつつ、試合ではまあ、そんなにリスペクトはいらないと思いますけど(笑)、終わったらリスペクトを持つ。日本人だからというよりは、日本代表がフィロソフィーとして掲げている『より美しく』というところも、自分自身いつも心がけています」

 デュッセルドルフとのドイツカップ1回戦後に、ミックスゾーンでその背景について丁寧に話をしてくれた。この試合でも、そしてプレシーズンにあったクリスタルパレスとのテストマッチでも、後藤が自分にできることを率先して行っている姿が、たびたび見受けられた。

 GK長田澪にドリンクボトルが必要かを聞いて駆けだしたり、アップ中のシュート練習時にはゴールマウスの中に入ってボール拾いをしたり。

 ワールドカップを経験したから急に始めたわけでもない、と後藤は明かす。

「ワールドカップが終わってから急に、というよりも、自分の中で大事にしていること。ジュビロ時代のキットマネージャーだったり、アンデルレヒト下部組織のフューチャーズの監督だったりに聞いてくれれば、『ずっとこうやっている』という話もできると思います」

 つまり、そこにあるのは「日本人としてこう振る舞うべき」という意識だけではない。もっと根本にあるのは、自分がサッカー選手として成長し、チームを勝たせるために何ができるかということを常に考えている。

「今後も継続してやっていきます。チームが勝つために運を集めているというのもありますし、自分が活躍するための運集めだと思っているので、できることをやっていきたいなと思います。やっぱり小さな差のところ、神は細部に宿るといいますけど、その小さな積み重ねや小さな違いというのが、やっぱり勝敗を分けたり、自分のキャリアにもつながってくると思うんですね」

 シュースター監督が称賛したのはベンチを片付けるという一つの行動だったし、その行動の背景にあるこれまで後藤を支えてきた関係者への感謝の言葉でもあった。

「彼に伝えて、教えてくれたことに感謝するし、彼がうちのクラブでプレーしてくれていることに感謝の思いでいっぱいだ」

 ゴールを決めた後も浮かれず、使った場所をきれいにし、相手へのリスペクトを忘れない。そして現実的に現状を把握し、自分に何が必要かと向き合い続ける。

「いきなりスタメンを取るというのは難しいと思って入ってきましたし、しっかり与えられた時間で自分のできることを出して、評価してもらいながら徐々に出場時間を伸ばせればと思ってここにきたので。

 すごく良い選手というか、学ぶことが多い選手が同じポジションにいてくれているのもすごく助かります。ひとつひとつ。いきなりスタメンで全試合というのは、やっぱり競争的にも、環境的にも難しいと思うので、しっかり一歩ずつステップを踏んでいきたいなと思います」

 デュッセルドルフ戦では86分から途中出場。アディショナルタイムを含めて10分弱の出番となった。試合の行方がすでに決まった後ではあったが、ポジショニングをしっかり意識し、攻守に走り、スペースに抜けてボールを呼び込み、セットプレーからチャンスにも絡んだ。どんな時間も、無駄にするつもりは一切ない。

「やっぱり練習から自分のプレーを出していく必要がありますし、監督が『使いたいな』と思う選手は、結果を残す選手だと思うので。今日も実際、最後にCKからチャンスがありましたし、少ない時間の中でも決め切れる力を見せていけば、監督からもそうですし、チームメートからの信頼もつかめて、どんどんボールが出てくるのかなと思います」

 後藤啓介は、プロサッカー選手として勝つために、そして自分自身のキャリアを切り拓くために、目に見えないところで「小さな差」にこだわっている。それが、シュースター監督の目に留まった振る舞いの本質なのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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