史上最高額オファーも「悩んだ」 愛あるクラブに別れ…22歳が覚悟の移籍「俺はこれをしたいのか」

今季フライブルクに加入したGK長田澪
今季フライブルクに正GKとして立つ長田澪は、同クラブ史上最高額となる1500万ユーロ(約27億円)もの移籍金で獲得された。また、ブレーメンにおいてもGKの売却として過去最高額になった。昨季まで正GKだったドイツ代表のノア・アトゥボルが移籍志願していることで、その後継者としてクラブが白羽の矢を立てたわけだが、獲得の理由について代表取締役ヨハン・ザイアーはこんな確信に満ちたコメントを残している。
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「ミオはブンデスリーガでの1年目から、非常に高いレベルでプレーできることを見事に証明しました。落ち着きと集中力に満ちた姿勢は、仲間にも良い影響を与えます。GKに求められるあらゆる能力を備えており、今後さらに成長する大きなポテンシャルも秘めています。人間的な面でもチームに非常によく馴染むでしょう」
スポーツ面で見たら、残留争いが続くブレーメンから毎年のようにヨーロッパカップ戦に出場しているフライブルクへの移籍は間違いなく素晴らしいステップアップ。
「自分にぴったりだなという感じがありました。サッカー界って、特にキーパーってなかなかこういう扉は開かないものだなと思っていたので。だからさすがにこれは行かないとかなと」
ただ選手の移籍はそれだけでは決まらない。ブレーメンから去ることを本人も少し前まで想像もしていなかった、と明かしてくれた。長田はU-15からブレーメンの育成アカデミーでプレーしている。クラブ愛が強く、ヴェーザースタジアムでのホームゲームの雰囲気を、何度も誇らしげに、うれしそうに話してくれていたものだ。
何が長田の心を大きく動かしたのだろう?「必要とされたから、すぐに決めた」というわけではなかった。むしろ、長田はかなり悩んだという。
「時間をかけて、結構悩んで。本当に俺はこれをしたいのかっていうことを考えて、悩んだ結果、行くことにしました。これだけ欲してくれるし、話をしてもすごい合う感じがしました。今のところ、すごい良かったなって思います」
ブレーメンを離れる寂しさや、新しい環境への不安がなかったわけではない。それでも最後は、自分自身に問いかけ、そして「行く」という決断を下した。
実際にフライブルクへ来て感じたのは、想像以上にスムーズなチームへの適応だった。
「みんなすごい優しいし、歓迎っていうか。あとダイレクトにいろんな意見を言ってくれるから、すごい助かってます」
新しいGKとして、もちろん学ぶことも多い。特にフライブルクでは、GKにもビルドアップへの関与が求められる。その判断基準は、これまでの経験とは少し違う。
「今までの感覚というか、これはいける・いけないで判断してたのが、もうちょっと基準が増えたところがある。まだちょっとそこ100%ではないかなっていう感じはあります」
クリスタル・パレスとのプレシーズンマッチでは、長田がロングボールを蹴るのに対して、ベンチ前のユリアン・シュースター監督が「なぜ蹴っちゃうんだ!」と大きなジェスチャーとともにメッセージを送っていた。プレーが切れるとGKコーチと話をして、プレー基準を整理・修正していく。
そして、ほぼ毎日のように映像を見ながら、チームの基準を理解しようとしている。
「ほぼ毎日ビデオミーティングをして、すぐに合わせられるようにっていう努力はしています。結構できた感じがしてきました。細かいことをもっとうまくできるようになれば。蹴るか蹴らないかの判断だったり、蹴る場所だったりとか、そういうところをもっとうまくできればなと思います」
ブンデスリーガで移籍をして、新天地で正GKとしてプレーする。そのプレッシャーは当然大きい。それでも長田は、必要以上にそのことを意識しない。
「もちろん大きいクラブに移籍したっていう実感はありますけど、今日もパレスに3-0で勝ってますから、なかなかのことだと思います。プレッシャーに関しては、あんまり考えないようにします。自分のできることを見て、スカウトしてくれて、欲しいって言ってくれたんで、それに関してはもうそれは自信持って、自分のできることを精一杯やれば必ず結果に出てくると思っています。目の前のことを目いっぱいやるだけですね」
楽しみなこともたくさんある。ヨーロッパカップ戦でこれまでプレーしたことがない場所やクラブとの試合がある。1週間2試合という過密日程を日常的に取り組まなければならない。そうしたこれまで経験したことのないスケジュールに期待を膨らませている。
「楽しみですね。もちろん楽しみです。スコットランドでやったりとか、いろんなところでできますから」
カンファレンスリーグプレーオフではマザーウェルと最初にアウェイで対戦。チームは3-1で勝利し、本戦出場権獲得に王手をかけている。
「スコットランドは観客席がピッチに近いスタジアムで、そういう経験ができるというのもすごいいいことですね。序盤に失点して難しい展開だったんですけど、チームとしてその後の時間は相手をコントロールできたなという試合で。相手に隙を与えなかったなと思いました。これを続けていきたいですね」
あの日、簡単には決められなかったフライブルクへの移籍。長く過ごしたブレーメンを離れた先で、長田は新しい環境に適応しながら、1人の人間としても、自分のGKとしての幅も広げようとしている。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。




















